GENIUS Actと日本のステーブルコイン規制の違い|2026年日米比較
約13分で読めます
約13分
目次(タップで折りたたみ)
米国GENIUS Actと日本のステーブルコイン規制の違いは、2点に集約できます。第1に規制の対象範囲です。GENIUS Actは「誰が米ドル建ての決済用ステーブルコインを発行できるか」を定める発行者中心の連邦法であるのに対し、日本は発行と流通の両面を規制します。発行主体は銀行・資金移動業者・信託会社等に限られ、銀行法・資金決済法・信託業法等の免許・登録を前提とする発行形態別の規律に服し、売買・交換・媒介・管理といった流通側は電子決済手段等取引業等の登録制です。第2に施行段階です。GENIUS Actは2025年7月18日に成立しましたが、実施規則がすべて提案段階にとどまるため2026年8月11日時点ではまだ施行されておらず、施行日は「最終規則の発行から120日後」か「2027年1月18日」の早い方です。日本は2023年6月から制度が施行済みで、2026年6月1日には外国発行ステーブルコインの受け入れ基準や仲介業の新設を含む改正まで施行されています。
この段階差があるため、「米国で法制化されたから日本でも同じように扱える」という関係は成り立ちません。本記事では、両制度の内容を条文と官庁の一次資料で確認したうえで、日本企業のどの事業にどちらの制度がいつ関係するかまで整理します(最終確認日:2026年8月11日)。
日米比較の早見表
| 観点 | 米国:GENIUS Act | 日本:資金決済法 |
|---|---|---|
| 規制の性格 | 発行者を連邦・州の免許制に置く発行者規制 | 発行は各業法(銀行法・資金決済法・信託業法等)の免許・登録を前提とする発行形態別の規律、流通(売買・交換・媒介・管理)は電子決済手段等取引業等の登録制 |
| 施行状況(2026年8月11日時点) | 成立済み・施行前。実施規則はすべて提案段階 | 施行済み。2023年6月施行の基本制度に加え、2026年6月1日に改正が施行 |
| 発行できる主体 | ①保険付預金機関の子会社、②連邦資格発行者(OCC承認の非銀行法人・無保険の国法銀行・外国銀行の連邦支店の3類型)、③州資格発行者に限定(Section 2(11)・2(23)) | 銀行(銀行法の免許)、資金移動業者(資金決済法の登録)、信託会社等(信託業法の免許・登録。特定信託受益権)の3形態 |
| 準備資産 | 発行残高に対し1対1以上。現金、連邦準備銀行の口座残高、93日以内の米国債、レポ取引、政府MMF等に限定し、毎月ウェブサイトで構成を開示 | 発行形態ごとの資産保全。2026年改正で特定信託受益権は一定の国債・中途解約可能な定期預貯金による運用が要件付きで可能に |
| 保有者への利息 | 発行者・外国発行者が保有を理由に利息・利回りを支払うことを条文で禁止 | 米国のような一律の明文禁止規定はなく、発行形態ごとの制度設計による |
| 外国発行銘柄の受け入れ | 財務省による規制の同等性判定と通貨監督庁(OCC)への登録等を条件に提供可能(施行後) | 日本の法制度との同等性が確保された外国信託受益権を電子決済手段として受け入れ(2026年6月1日施行) |
以下、それぞれの制度の根拠と、この表の読み方を説明します。
米国GENIUS Act:発行者を免許制にする連邦法
GENIUS Act(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act、Public Law 119-27)は2025年7月18日に成立した、米国初の包括的なステーブルコイン連邦法です。条文は米国政府出版局(GPO)の公式PDFで確認できます。
中核はSection 3(a)の発行者限定です。米国内で決済用ステーブルコイン(payment stablecoin)を発行できるのは「許可された発行者(permitted payment stablecoin issuer)」だけになります。Section 2(23)は許可発行者を、①決済用ステーブルコインの発行承認を受けた保険付預金機関の子会社、②連邦資格発行者(Federal qualified payment stablecoin issuer)、③州資格発行者(State qualified payment stablecoin issuer)の3区分と定義します。このうち②の連邦資格発行者は、Section 2(11)でさらに3類型に分かれます。通貨監督庁(OCC)の承認を受けた非銀行法人、OCCが免許を与え発行を承認した無保険の国法銀行(連邦預金保険の対象外のnational bank)、そしてOCCの承認を受けた外国銀行の連邦支店(Federal branch)です。いずれの類型もSection 5に基づくOCCの承認手続が前提であり、「非銀行企業だけが連邦資格の対象」ではない点に注意が必要です。発行残高100億ドル以下の発行者は、連邦の枠組みと「実質的に同等」と認められた州制度の下で発行を続けられます(Section 4(c))。閾値を超えた場合は、原則として360日以内の連邦監督への移行が必要です(Section 4(d))。
許可発行者にはSection 4(a)で次の義務がかかります。
- 準備資産の1対1保持:発行残高に対し1対1以上の識別可能な準備資産(発行者が償還に備えて保持する裏付け資産)を保持します。認められる資産は、米ドル現金、連邦準備銀行の口座残高、要求払預金、残存または発行時満期93日以内の米国債、その米国債を担保とする翌日物レポ取引・リバースレポ取引、これらだけで運用される政府系MMF(マネー・マーケット・ファンド:短期国債等で運用する投資信託)等に限定されます。
- 償還方針と手数料の公開:償還手続を明確に公開し、購入・償還手数料の変更には7日以上前の事前通知が必要です。
- 月次開示と経営者証明:発行残高と準備資産の構成を毎月ウェブサイトで開示し、登録会計事務所の検証を受けたうえでCEOとCFOが正確性を証明します。虚偽証明には刑事罰があります。
- 利息の禁止:Section 4(a)(11)により、発行者・外国発行者は、保有・利用・保持のみを理由として保有者へ利息や利回り(現金・トークン等の形式を問わず)を支払えません。利回り付きステーブルコインを前提にしたサービス設計は、この条文と衝突しないかの確認が必要です。
発行者以外の事業者にも影響があります。Section 3(b)により、成立から3年後(2028年7月18日)以降は、取引所やカストディアン(利用者の資産・秘密鍵を預かる保管事業者)等のデジタル資産サービス事業者が、許可発行者以外の銘柄を米国内の者へ提供・販売することが原則違法になります(後述のSection 18の外国発行者例外を除く)。Section 3(e)は、米国内の者への提供・販売に関わる限り域外にも適用する意図を明記しており、米国ユーザーを対象に含めるサービスは米国外の企業でも無関係ではありません。
GENIUS Actはまだ施行前:規則制定の現在地(2026年8月時点)
GENIUS ActのSection 20は、施行日を「成立から18か月後(2027年1月18日)」か「主要連邦規制当局が最終実施規則を発行してから120日後」のいずれか早い日と定めています。つまり施行時期は最終規則の発行タイミングに依存します。
2026年8月11日時点で、主要な実施規則はすべて提案段階(NPRM:規則案の公表と意見募集)であり、最終規則の公表は確認できません。公表済みの主な規則案は次のとおりです。
| 機関 | 内容 | 公表日 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 通貨監督庁(OCC) | OCC管轄の発行者に関する包括的な実施規則案 | 2026年3月2日 | 提案段階 |
| 財務省 | 州制度が連邦枠組みと実質的に同等かを判定する原則案 | 2026年4月3日 | 提案段階 |
| 連邦預金保険公社(FDIC) | FDIC監督下の発行者への要件・基準案 | 2026年4月10日 | 提案段階 |
| 全国信用組合管理機構(NCUA) | NCUA管轄の発行者に関する実施規則案 | 2026年5月18日 | 提案段階 |
このほか、マネー・ローンダリング対策(AML/CFT:顧客確認・取引監視等の金融犯罪対策)や制裁対応に関する規則案も2026年4月〜6月に別途公表されています(例:OCCのAML/CFT・制裁コンプライアンス規則案)。
最終規則が今後も出なければ施行日は2027年1月18日です。最終規則が公表されれば「公表から120日後」へ前倒しされる可能性があるため、米国向けの事業計画では最終規則の公表そのものが最重要のマイルストーンになります。
日本:発行と流通の両方を規制し、すでに施行済み
日本では、2023年6月1日施行の改正資金決済法により、法定通貨建てで額面償還が約束される型のステーブルコインを「電子決済手段」として扱う制度が動いています(条文はe-Gov法令検索「資金決済に関する法律」)。発行できる主体は銀行、資金移動業者、信託会社等(特定信託受益権=信託型)の3形態に整理されていますが、資金決済法が発行そのものを一つの登録制に置いているわけではありません。銀行は銀行法の免許、資金移動業者は資金決済法上の資金移動業登録、信託会社等は信託業法の免許・登録という各業法上の資格を前提に、発行形態ごとの償還・資産保全等の規律が適用されます。一方、売買・交換・媒介・他人のための管理といった流通側の行為には「電子決済手段等取引業」等の登録が必要で、金融庁はこの登録制度を「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業を行うみなさまへ」として案内しています。
制度は紙の上だけではなく、実際に運用されています。2025年10月27日には、資金移動業型として国内初の日本円建てステーブルコインJPYCの発行が始まりました(JPYC株式会社の正式リリース発表)。
さらに、令和7年改正資金決済法(2025年6月成立、法律第66号)と関連する政令・内閣府令等が2026年6月1日に施行されました。ステーブルコインに関係する主な変更は次の4点です。
- 外国発行ステーブルコインの受け入れ基準:日本の電子決済手段法制との「同等性」が確保された外国法令に基づく信託受益権を、電子決済手段として扱えるようになりました。電子決済手段等取引業者が外国電子決済手段を取り扱う際の判断基準としても同等性が明確化されています(金融庁2026年5月19日公表資料)。
- 仲介業の新設:登録業者から委託を受けて売買・交換の媒介のみを行う事業者向けに「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」が新設されました。対象行為は限定されており、自社で管理や交換まで行う場合は従来どおり取引業の登録が問題になります。
- 国内保有命令:利用者資産の国外流出に備え、当局が取引業者等へ国内保有を命じ得る資産の範囲が定められました。
- 準備資産運用の柔軟化:信託型(特定信託受益権)の裏付け資産について、一定の国債と中途解約可能な定期預貯金による運用が、組入上限等の要件付きで認められました(以上の改正全体は金融庁2026年5月22日公表資料)。
注意したいのは、2026年改正は「外国銘柄の自動解禁」でも「規制緩和による自由化」でもない点です。同等性の判断、個別銘柄の法的構成、取扱業者の登録・体制はいずれも個別の確認事項として残ります。
越境の扱い:双方に「同等性」の入口があるが、判定はこれから
両制度を比較すると、外国発行銘柄の受け入れに関して対称的な構造を持っていることが分かります。
米国側では、GENIUS ActのSection 18が外国発行者の例外を定めます。外国発行者の本国制度が米国の枠組みと同等だと財務長官が判定し、発行者がOCCへ登録し、米国顧客の流動性需要を満たす準備資産を米国内の金融機関に置くこと等を条件に、施行後も米国内での提供が可能になります。2026年8月11日時点で、この同等性判定が公表された国は確認できません。
日本側では、前述のとおり2026年6月1日から、日本の法制度と同等性が確保された外国法令に基づく信託受益権を電子決済手段として受け入れる枠組みが施行済みです。ただし、受け入れは自動ではなく、個別銘柄の構造確認と、国内の登録業者による取扱いが前提になります。
この対称構造から、米国の制度が施行され、日米それぞれの同等性判断が積み上がれば、ドル建て銘柄の日本国内での取扱いと円建て銘柄の米国提供の両方向で制度上の道が開けることになります。ただし、どちらの方向も判定実績はこれからであり、2026年8月時点では「制度の入口が整った」段階と評価するのが正確です。
日本企業の実務では、どちらの制度がいつ関係するか
最後に、この比較を自社の事業に引き付けて整理します。
- 円建てステーブルコインを発行したい:適用されるのは日本の資金決済法です。銀行・資金移動業・信託型のどの発行形態を選ぶかが最初の分岐になります。将来、米国内の者への提供を視野に入れる場合は、GENIUS Act施行後にSection 18の外国発行者要件(同等性判定・OCC登録等)が関係します。
- 決済や送金にステーブルコインを使いたい:国内で完結する利用であれば、確認対象は日本法です。使う銘柄が電子決済手段に該当するか、どの登録業者経由で入手・償還するかを確認します。米国の施行状況は銘柄の将来性評価には関係しますが、国内利用の可否を直接決めるものではありません。
- 売買・交換・保管などのサービスを提供したい:電子決済手段等取引業の登録該当性が中心の論点です。委託を受けた媒介のみであれば、2026年6月に新設された仲介業の枠に収まるかを確認します。米国ユーザーを対象に含める場合は、施行後のSection 3(b)(許可発行者以外の銘柄の提供禁止)が加わります。
- ウォレットやシステムの開発・技術提供のみを行いたい:受託開発やSDK提供のように資産の移転・管理へ関与しない立場であれば、通常は登録義務の直接の対象になりません。ただし、鍵の保管や送金の実行権限など、実装の中身が「他人のための管理」や媒介に踏み込むと評価が変わるため、機能単位での確認が必要です。
いずれの類型でも、登録要否や個別スキームの適法性の最終判断は弁護士等の専門家の領域です。企業側で準備できるのは、対象ユーザー、資金フロー、自社と委託先の役割、システムの操作権限を事実として整理し、専門家が判断できる材料にすることです。
FAQ
GENIUS Actが施行されたら、米国のステーブルコインは日本でもそのまま使えるようになりますか?
なりません。日本国内での取扱いは日本の資金決済法で決まります。外国発行銘柄は、日本の法制度との同等性が確保された構造であること、国内の登録業者が取り扱うことが前提であり、米国での許可や施行は日本での提供可否を直接決めません。
2026年6月の改正で、外国発行ステーブルコインは解禁されたのですか?
「解禁」ではなく「受け入れ基準の整備」です。同等性が確保された外国法令に基づく信託受益権を電子決済手段として扱える枠組みが施行されましたが、個別銘柄の構造確認と登録業者による取扱いは引き続き必要です。
いま米国向けのステーブルコイン事業を計画する場合、何を追えばよいですか?
最重要は主要連邦規制当局の最終規則の公表です。公表から120日後に施行が前倒しされ、発行者要件・登録手続・州制度の同等性基準が確定します。2026年8月11日時点ではOCC・財務省・FDIC・NCUAの規則案が提案段階にあり、意見募集と修正の行方が事業要件に直結します。
XTELAが支援できる範囲
登録要否や適法性の法的判断は弁護士等の専門家が担う領域であり、XTELAはこれを代替しません。XTELAが支援するのは、その手前と後ろにある技術・業務の設計です。ステーブルコインを扱うサービスの資金フロー整理、ウォレット・鍵管理・権限設計、償還や返金を含む例外処理の業務フロー、PoC設計と開発を、専門家へ渡せる精度の資料と実装に落とし込みます。
主要参考資料
- U.S. GPO: GENIUS Act(Public Law 119-27)全文
- Federal Register: OCCによるGENIUS Act実施規則案(2026年3月2日)
- Federal Register: 財務省による州制度同等性の原則案(2026年4月3日)
- Federal Register: FDIC監督下発行者への要件・基準案(2026年4月10日)
- Federal Register: NCUA管轄発行者への実施規則案(2026年5月18日)
- OCC: AML/CFT・制裁コンプライアンス規則案
- e-Gov法令検索: 資金決済に関する法律
- 金融庁: 電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業を行うみなさまへ
- 金融庁: 外国信託受益権に関する内閣府令等の公布(2026年5月19日)
- 金融庁: 令和7年資金決済法改正に係る政令等の公布(2026年5月22日)
- JPYC株式会社: 日本円ステーブルコイン「JPYC」および発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を正式リリース(2025年10月27日発行開始)
本記事の前提
本記事は2026年8月11日時点の一次資料に基づく制度比較と事業・技術設計上の論点整理であり、法務・会計・税務・投資の助言ではありません。米国の最終規則、財務省の同等性判定、日本の政令・府令・監督指針は今後更新され得ます。実際のサービス設計・提供の前に、最新の一次資料と個別スキームを専門家へ確認してください。