Pendle PT/YT 分離|「元本と利息を別々に売る」金融設計

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Pendle PT/YT 分離|「元本と利息を別々に売る」金融設計
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    本記事は技術解説であり、投資・税務・法務助言ではありません。判断は専門家にご相談ください。

    「自社顧客向けに『暗号資産を預けると年率6%固定で増える』商品を作りたい」——この実装の代表的な裏側が Pendle PT/YT 分離。本記事は事業者目線で、これを「伝統金融のゼロクーポン債と同じ仕組み」として整理する。


    目次

    1. なぜ事業者がこれを理解する必要があるのか
    2. Pendle PT/YT 分離の仕組み — ゼロクーポン債との対応
    3. 機関 RWA Vault(BUIDL、OUSG)との接続
    4. 自社固定利回り商品のバックエンドとして使う
    5. PT/YT 価格の読み方と不確実性
    6. 開発期間とコスト、日本の規制論点
    7. まとめ

    1. なぜ事業者がこれを理解する必要があるのか

    機関顧客・富裕層向けに「価格安定 + 固定利回り」のプロダクトを設計する場面が増えている。Pendle はその裏側として2024-2026年に主要採用される設計(TVL 推移は DefiLlamaPendle 公式 Docs を参照)。


    2. Pendle PT/YT 分離の仕組み — ゼロクーポン債との対応

    基本概念

    利回りがつく資産(stETH、aUSDC、BUIDL 等)を Pendle に預けると、2つに分離される:

    • PT(Principal Token = 元本トークン): 一定期日後に、元の資産を1枚もらえる権利
    • YT(Yield Token = 利息トークン): その期間中に発生する利回りを受け取る権利

    伝統金融との対応

    Pendle 伝統金融
    利回りつき資産 利付債
    PT ゼロクーポン債(元本部分)
    YT クーポン部分の権利
    PT を満期保有 額面で償還
    PT を割引で買う ゼロクーポン債を割引価格で買う

    具体例

    1 stETH(ETH ステーキング預け証)を1年期間の Pendle に預ける:

    • 1 PT-stETH(1年後に 1 stETH に償還される権利)
    • 1 YT-stETH(1年間の stETH ステーキング報酬を受け取る権利)

    PT を市場で買う場合:
    - 1 PT-stETH の市場価格: 0.96 stETH(割引価格)
    - 1年後に 1 stETH に償還
    - 実効利回り: (1 - 0.96) / 0.96 = 約4.2%(固定)

    これが「Pendle PT で固定利回り商品を作る」仕組み。


    3. 機関 RWA Vault(BUIDL、OUSG)との接続

    ここが本記事で最も重要なパートだ。Pendle が2024-2026年に DeFi 最大の利回りデリバティブ市場へ成長した最大の理由は、ステーキング系資産だけでなく RWA(Real World Asset、トークン化された米国債など)との接続にある。事業オーナーが「次の重要トレンド」として押さえるべきは、まさにこの RWA × Pendle の構造だ。

    3.1 なぜ「RWA を Pendle に載せる」ことが事業インパクトを持つのか

    Pendle は利回り資産を PT(元本)YT(利息) に分離する(2章参照)。ここに「トークン化された米国債」のような RWA を載せると、何が起きるか。

    • 機関は「固定利回り」を設計できる: トークン化米国債の利回りは短期金利に連動して変動する。これを Pendle に載せて PT を満期保有すれば、満期までの固定利回りが確定する。変動金利の RWA を、機関商品に向く「確定利回りプロダクト」へ作り替えられる。
    • 機関は「利回り投機」を設計できる: YT を買えば、対象資産の利回りが将来どう動くかに対するポジションが取れる。金利見通しに対するレバレッジ的なエクスポージャーを、貸借せずに作れる。
    • つまり Pendle は RWA の「金利スワップ/ゼロクーポン化」レイヤーになる: 伝統金融で言えば、利付債を「割引債(元本)」と「金利ストリップ」に分解するストリッピングと同じ機能を、トークン化資産に対してオンチェーンで提供する。これが事業的インパクトの核心だ。

    3.2 BlackRock BUIDL — トークン化米国債ファンドの旗艦

    BUIDL(BlackRock USD Institutional Digital Liquidity Fund) は、世界最大の資産運用会社 BlackRock が手がけるトークン化米国債ファンドで、RWA トレンドの象徴的存在。

    • 2024年3月、Ethereum 上でローンチ。BlackRock として初のパブリックブロックチェーン上のトークン化ファンド。トークン化・コンプライアンス・移転代理は Securitize が担う。
    • AUM は 2025年3月に10億ドルを突破し、2025年後半には25億ドル規模へ拡大(〜2025年11月時点。RWA.xyz 等を参照)。ローンチ以降の累計分配は1億ドル規模に達したと報じられている。
    • 当初の Ethereum に加え、複数チェーンへ展開。2025年後半には BNB Chain への拡張や、Binance での取引担保としての採用も発表された。
    • DeFi 側との接続が進み、Ondo の OUSG が裏付けに BUIDL を採用するなど、「RWA の準備預金」的な基盤資産として使われ始めている。

    事業者視点での含意: BUIDL は「機関が安心して持てるトークン化米国債」のデファクト候補で、その利回りを Pendle で固定化/分離できれば、機関向け固定利回り商品の素材が一気に整う。

    出典: Securitize 公式 BUIDL ページRWA.xyzBUIDL が10億ドル突破(PR Newswire) 等。

    3.3 Ondo Finance OUSG / USDY — Pendle と実際に接続済みの RWA

    RWA × Pendle を「すでに動いている事例」として語れるのが Ondo Finance だ。

    • OUSG(Ondo Short-Term US Government Bond Fund): 短期米国債に投資するトークン化ファンド。裏付けの一部に前述の BUIDL を採用。TVL は 2025年後半時点で11億ドル規模に達したとされる(RWA.xyz 参照)。
    • USDY(Ondo US Dollar Yield): 短期米国債と銀行預金を裏付けにした利回り付きトークン。Ethereum に加え2025年に Solana へ展開。
    • Pendle との接続: Ondo は Pendle と提携し、PT-USDY が Pendle 上に上場。ユーザーは USDY の元本(PT)と利回り(YT)を分離して、固定利回りエクスポージャーや利回り投機を組める。つまり「トークン化米国債を Pendle でストリッピングする」という本記事の中心テーマが、Ondo × Pendle ですでに現実になっている。

    出典: Ondo 公式 OUSGOndo 公式 USDYRWA.xyz OUSG

    3.4 Pendle の TVL 構成 — RWA・合成ドルが主役に

    Pendle 上で「何が主要 TVL を占めているか」は、この数年で大きく変化した。

    • 2024年: TVL の6割超が ETH 系の LST/LRT(stETH、weETH 等)。EigenLayer 再ステーキングのポイント獲得需要が牽引した。
    • 2025年: 構成が ステーブルコイン/合成ドル系へシフト。特に Ethena の sUSDe/USDe プールが突出し、一時 TVL の半分〜3分の2規模(時期により60〜75%との分析もある)を占めたとされる。
    • 2025〜2026年: ここに RWA 系プール(USDY、USYC など短期国債・トークン化 MMF 由来)が加わり、Pendle の TVL は ピークで130億ドル超に達したと報じられる(DefiLlama 参照。数値は時点により変動)。

    事業者にとっての読み筋: Pendle は「ETH ステーキングの利回り市場」から「合成ドル+トークン化米国債の固定利回り市場」へ重心を移している。RWA × 固定利回りの需要が、Pendle の成長そのものを牽引している。

    出典: DefiLlama Pendle、各種市場分析。

    3.5 主要な接続(サマリ)

    • BUIDL(BlackRock 米国短期国債)→ Ondo 等の RWA → Pendle: 米国債利回りを固定化/分離
    • USDY(Ondo トークン化米国債)→ Pendle: PT-USDY として上場済み
    • sUSDe(Ethena 合成ドル)→ Pendle: delta-neutral 利回りを固定化(2025年の主力プール)
    • stETH/weETH(ステーキング・再ステーキング)→ Pendle: ETH 利回りを固定化(2024年の主力)

    機関顧客にとって「変動する利回り」よりも「固定の利回り」の方が商品設計しやすい。Pendle がその橋渡しになっている。

    3.6 国内主要プレイヤーの動き — 日本の RWA トークン化と「固定利回り設計」

    ここまでは米国発の事例だが、日本でも RWA トークン化(ST: セキュリティトークン)が急速に立ち上がっており、事業オーナーが押さえるべき国内プレイヤーが揃ってきた。

    • Progmat(三菱UFJ信託銀行発): 国内 ST 市場で取扱規模・案件数・参加企業数 No.1 を標榜するデジタル資産基盤。SBI証券・野村證券など多数の金融機関が参加。
    • 三菱UFJ系 × Progmat の「トークン化投資信託(MMF)」: 2025年12月、三菱UFJ系の運用・証券・信託各社が Progmat と組み、機関投資家向けの円建てトークン化 MMF(マネー・マーケット・ファンド)を2026年に提供する構想を発表。これは「日本版のトークン化短期金融商品」であり、米国の BUIDL/OUSG に対応する位置づけになり得る。
    • 不動産 ST の大型化: 2025年9月、KJR マネジメント・三菱UFJ信託・Progmat が、港区の汐留シティセンター(超高層オフィスビル)を裏付けに 約314億円という国内最大規模の不動産 ST 発行を完了。
    • BOOSTRY(野村系): 野村ホールディングス系の ST 基盤で、Progmat と並ぶ国内主要プラットフォーム。
    • Securitize(Securitize Japan を含む): 前述 BUIDL のトークン化を担う米 Securitize は日本でも展開し、国内 ST 市場の主要プレイヤーの一角。

    日本の事業者が「Pendle 的な固定利回り設計」をどう使えるか: 国内 ST/トークン化 MMF は「変動利回りの裏付け資産」である点は RWA と同じだ。将来、円建てトークン化 MMF のような利回り資産が整えば、PT/YT 分離の発想(元本と利息を分けて固定利回り商品を組む)は、国内機関向け商品の設計テンプレートとして応用できる。今の段階では規制・流通環境の制約が大きいが、「米国で BUIDL/OUSG × Pendle が示した型を、国内 ST 基盤の上でどう再現するか」は中長期の重要論点になる。

    出典: Progmat 公式三菱UFJ信託銀行リリース、各社プレスリリース。

    3.7 Why now — なぜ2024-2026年に RWA × DeFi の利回り設計が加速したか

    最後に、事業オーナーが「なぜ今これが重要トレンドなのか」を一言で持ち帰れるように、加速の背景を3点に整理する。

    1. 機関の本格流入: BlackRock(BUIDL)をはじめ、大手運用会社・銀行・ソブリンウェルスファンドがトークン化資産に参入。トークン化米国債の市場規模は2025年に大きく拡大し(2025年11月時点で約90億ドル)、RWA 全体(ステーブルコイン除く)もオンチェーンで2025年末に約186億ドル、2026年初頭には240億ドル超へ成長したと報じられる(RWA.xyz 参照。数値は時点により変動)。
    2. 金利環境: 高めの米ドル金利が続いたことで、「米国債利回りそのもの」がオンチェーンの魅力的な利回り源になった。利回りがほぼゼロだった局面では成立しにくかった「トークン化国債を固定利回り商品に組む」というニーズが、金利上昇で初めて事業として立ち上がった。
    3. 規制整備とインフラ成熟: トークン化証券に対する法的枠組みの明確化(米国・日本ともに)、24/7 決済・コスト削減といった構造的メリット、そして Pendle や ERC-4626 のような「利回りを扱う標準インフラ」の成熟が重なった。

    つまり 「機関流入 × 高金利 × 規制・インフラ成熟」の3つが同時に揃ったのが2024-2026年であり、これが RWA × Pendle(固定利回り設計)を「次の重要トレンド」に押し上げている。

    出典: RWA.xyzDefiLlama Pendle


    4. 自社固定利回り商品のバックエンドとして使う

    想定シナリオ

    「自社の機関顧客が USDC を1年預けると年率6%固定で増える商品」を組むとする。

    • ユーザーから USDC を預かる(自社の Vault 経由)
    • USDC を Aave に貸して aUSDC(利息つきトークン)を受け取る
    • aUSDC を Pendle に預けて、PT-aUSDC(固定利回り)を取得
    • 顧客には「年率6%固定」と約束、PT の満期で精算
    • 差額が自社の利益(スプレッド)

    設計上の留意点

    • Pendle の満期と顧客契約期間の整合: 1年商品なら1年満期 PT を使う
    • PT 市場価格の変動: 中途解約時の損益
    • Pendle 自体のセキュリティリスク: 監査済みプロトコルだが、機関向けには相対重要

    5. PT/YT 価格の読み方と不確実性

    PT 価格の意味

    PT 価格は「期間中に期待される実効利回り」を反映する。

    • 高い実効利回りが期待される → PT は割引が大きい(安く買える)
    • 低い実効利回り → PT は割引が小さい(高い)

    YT 価格の意味

    YT 価格は「期間中の予想利回りの現在価値」を反映する。期間中に利回りが想定より高ければ YT 保有者の利益、低ければ損失。

    不確実性

    Pendle PT は「満期で確定利回り」だが、満期前に売却するなら、市場での PT 価格変動のリスクを取る。事業者は商品設計で「中途解約禁止」「中途解約手数料」を組み込む。


    6. 開発期間とコスト、日本の規制論点

    自社固定利回り商品のコスト目安

    項目 目安
    Vault コア実装(ERC-4626 互換) 2-3人月
    Pendle 接続(PT 取得・保有・満期処理) 1-2人月
    フロントエンド 1-2人月
    監査 $25K-80K(注)

    注: 監査費用は規模・コード新規性・監査ファーム(簡易な個別契約か、複数社/トップティアか)で大きく変動する。本シナリオのように既存標準(ERC-4626)+外部プロトコル接続が中心の Vault 的構成は下限寄り、独自ロジックが多い・新規性が高い・複数社を起用する場合は上限寄りになる。

    日本の規制論点

    領域 関連法 主な論点
    顧客に固定利回り商品提供 金商法 投資勧誘・適合性原則
    「固定利回り」表現の使用 出資法・特商法 確実性を装う表現の規制
    Pendle 等への預入 改正資金決済法 暗号資産取扱範囲

    「固定利回り」を商品名に使う際は、金商法・特商法の論点があるためコンプラ部門に必ず確認。

    過去のインシデントから学ぶ設計教訓 — Penpie 攻撃 (2024年9月3日)

    Pendle 関連で押さえておくべき事例が Penpie 攻撃。Penpie は Pendle 上で収益最大化を行うサードパーティ製の収益アグリゲータプロトコルで、2024年9月3日に Pendle Market を悪用した攻撃を受け、約 2,700万 USD 相当の資産が流出した。Pendle 本体のコントラクトは無事だったが、「Pendle Market を呼び出す側」の Penpie に脆弱性があり、Pendle の正当な機能が攻撃の経路として使われた格好。

    事業者にとっての含意:
    - Pendle 自体は無事でも、Pendle 上に乗るアグリゲータ/Vault のリスクは独立に評価する必要: 「採用先プロトコル」と「採用先プロトコルが内部で使うプロトコル」の両方を監査履歴・運用実績で評価
    - 自社で Pendle PT を組み込む Vault を作る場合、Pendle との接続コードが攻撃面になる: deposit/withdraw 経路、報酬精算、satellite reward の処理を重点的にレビュー
    - エコシステム横断リスク: 単一プロトコルの監査が完了していても、組み合わせた瞬間に新しい攻撃面が生まれる

    出典: Pendle 公式 post-mortemRekt News - Penpie 等で詳細参照。


    7. まとめ

    3つの要点:

    1. Pendle PT/YT = 利回り資産を「元本部分」と「利息部分」に分離
    2. 機関 RWA との接続で2024-2026年に急成長
    3. 自社固定利回り商品のバックエンドとして活用可能

    詳しくは ERC-4626 Vault標準DeFi完全マップ 2026 を参照。


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