自己主権型アイデンティティ(SSI)とは?DIDとの関係や仕組み・メリットをわかりやすく解説
2026/09/03
2026/09/03
目次
インターネット上でサービスを利用する際、これまでは、企業や行政などが発行・管理するIDを使って本人確認を行うことが一般的でした。そこで、最近注目されているのが、SSI(自己主権型アイデンティティ)です。SSIは、デジタルアイデンティティを誰が管理するのか、IDの使い方そのものを見直す概念です。
SSIでは、利用者自身がデジタルアイデンティティの管理主体となり、必要な情報だけを相手に提示することを目指します。さらに、その実装方法によっては、従来とは異なる独立したデジタルアイデンティティを管理していける可能性も示唆されています。
本記事では、SSIの基本概念からDID、VC、デジタルウォレットとの関係、ブロックチェーンの必要性、メリットと課題、具体的な活用例までを整理していきます。
自己主権型アイデンティティ(SSI)とは何か?
SSIは、「本人が自身のデジタルアイデンティティや証明情報を主体的に管理し、必要な相手に提示する」という考え方です。
従来の中央集権型のIDの課題、「時間や手間がかかりすぎる」「第三者によって完全に個人情報がコントロールされる」といった課題を解決する考え方となります。
最初に中央集権型アイデンティティの課題と自己主権型アイデンティティの基本概念から見ていきます。
中央集権型アイデンティティの限界と個人情報管理の課題
通常、インターネットサービスでは、氏名や住所などを各事業者に登録し、本人確認の承認を受け、管理される仕組みが当たり前になっています。SSOやSNS連携で便利にはなりましたが、「誰かが自分のID情報を管理している」という中央集権的な構造が主流です。
この構造には、現在主に2つの深刻な課題が存在します。

課題1:本人確認に手間と時間がかかる
運転免許証などの本人確認証明では目視確認が主流です。書類を揃えて認証されるまでに数日~数週間かかり、不備があればやり直しです。本人に間違いがなくても、書類の不備で身元が証明できないことすらあります。「自分が自分であること」の証明に第三者の許可が不可欠という、非効率な構造であるのが一般的です。
課題2:第三者に個人情報が完全にコントロールされる
預けた情報は事業者のデータベースに蓄積され、自分で修正・削除が困難です。自分の知らないところで情報が保存・共有され、漏えいのリスクがあるにもかかわらず防御手段を持ちません。「自分の情報なのに自分で管理できない」、これが中央集権型管理の根本的な不自由さです。
こうした課題から、SSIが注目を集めています。
SSI(自己主権型アイデンティティ)の基本概念と定義
中央集権型管理の課題を解決するために考案されたのが、SSI(自己主権型アイデンティティ)です。
SSI:Self-Sovereign Identity

SSIでは、これまで事業者側に預けていたアイデンティティ情報を、本人が主体的に保持・管理できる仕組みを目指します。 生年月日や住所を提出する代わりに、「年齢的にクリアしている」「日本国内に居住している」といった要件クリアの可否のみを送信するやり方です。
個人情報を提出することなく、状況に応じて、「個人が自分自身のデジタルアイデンティティを主体的に管理・コントロールできる」という、全く新しい概念になります。
政府や教育機関などの管理主体に依存せず、ユーザー自身がデジタルID・秘密鍵等を用いて情報を保持し、必要な場面で「必要な情報だけ」を相手に安全に提示することを目指します。
国際的な認証機関や金融庁などの調査資料でも、SSIは単なるシステム仕様ではなく、「個人が自身のアイデンティティの主権を取り戻すための思想」として位置づけられています。
参考:
W3C – Linked Web Storage Use Cases / SSI definition
European Commission – SSI eIDAS Bridge
SSIが注目される背景
近年、世界中でSSIが急速に注目を集めている背景には、デジタル社会の急激な進展とプライバシー保護へ懸念があります。
- プライバシー保護規制の強化(GDPRなど)
EUのGDPRをはじめ、世界的に個人情報の保護や「忘れられる権利」が法制化される中、企業による過剰なデータ収集や管理の見直しが迫られています。
- 相次ぐ個人情報流出と信頼の揺らぎ
中央集権型サーバーのハッキングや不正利用による事件が後を絶たず、「企業に個人を預けるリスク」が社会問題化しています。
- デジタルIDの限界とID一極化のニーズ
サービスごとにバラバラなIDを発行・管理するのではなく、ユーザー中心で安全かつシームレスに身元や資格を証明できる仕組み(デジタルIDの一元化・ポータビリティなど)が、これからのデジタル社会のインフラとして求められています。
参考:GDPR EU – What is GDPR, the EU’s new data protection law?
デジタルアイデンティティ管理の進化とSSIの位置づけ
デジタルアイデンティティは、ID・パスワード管理から、シングルサインオン(SSO)やSNSログインまで、多様な方式へと発展してきました。SSIは、これら既存のID方式を単純に代替するものではなく、「本人が自分のアイデンティティを主体的に証明・管理する」という新しい考え方に基づくアプローチです。
ここでは、現在のSSIがどのような位置づけにあるのかを、従来のID方式と比較しながら整理します。
ID・パスワード管理からフェデレーション方式への発展
インターネットの黎明期、ユーザーは利用するサービスごとに「IDとパスワード」を個別に作成・管理していました。これがパスワード疲労や使い回しによるセキュリティ低下を招いたため、次のような進化を遂げてきました。
- シングルサインオン(SSO)とID連携(フェデレーション)の普及
企業の境界を越えて、1つの認証情報で複数のサービスへログインできるようにする仕組みが普及しました。
- SNSログイン(ソーシャルログイン)の一般化
GoogleやApple、Facebookなどの大手プラットフォームのアカウントを用いたSNSログインは、外部サービスを手軽に利用できる高い利便性をもたらしました。その一方で、ユーザー自身のデータがプラットフォーム側に依存し、手の届かないところで一人歩きするという「コントロールの喪失」が懸念され始めています。
現状の仕組みでは、ユーザー自身がID情報を自由に管理できず、融通のきかない構造によって「本人証明」すら困難になるケースも存在します。
SSIは既存のアイデンティティ管理を置き換える技術なのか
SSI(自己主権型アイデンティティ)の普及により、従来のID方式がすべてなくなるわけではありません。サービス側がSSI対応の認証基盤を整備するには時間がかかるため、当面は共存・ハイブリッド運用が進むと考えられます。
既存システムとの共存
例えば、普段の社内システムやWebサービスでは従来のIDを使い続け、高度な信頼や厳格な本人確認が求められる領域にのみSSIを部分的に取り入れるようなイメージです
現段階のSSIは、既存の認証技術を一夜にして置き換えるものではありません。従来の仕組みを否定するのではなく、ユーザー自身が情報を管理・提示できる補完的な選択肢として、次世代のアイデンティティ管理を切り開いている過程にあります。
SSIの2つの側面
つまりSSIには、「現在のID方式を本人が管理できるようにする」側面と、「将来的に従来とは異なるデジタルアイデンティティを形成する」という2つの側面があります。
「自己主権」とは何を意味するのか
SSIにおける「自己主権」とは、単なるIDの自己管理ではなく、「誰であるか」の本人証明(実在証明)と「何を備えているか」の属性証明を、本人の意思と必要範囲で開示・選択できる当人の権利を指します。
- 誰であるか → 本人であることの証明(本人証明)
- 何を備えているか → 国籍、住所、学歴、資格など(属性証明)
短期的には既存システム内でこの選択権を補完的に付与し、長期的にはIDモデルそのものを本人主導の証明へと再構築する、この二層構造がSSIの自己主権の本質です。
つまり、ここでいう自己主権は、管理主体の変更に留まらず、ID方式そのものの仕組みを個人が選択・管理できる概念を指します。従来のID方式とは全く異なる、新しい次世代の概念へと導くものです。
SSI・DID・VC・デジタルウォレットの関係
この自己主権概念を現実の運用で支えるのが、SSIという考え方と、それを支えるDID・VC・デジタルウォレットの関係です。
SSIを活用していく上で欠かせない4つのID証明方式と、その関係性を表で整理しました。
| 要素・正式英語名 | 分類位置づけ | 主な役割・例 |
| SSI(Self-Sovereign Identity) | 思想概念 | 個人がデジタルアイデンティティの主権を取り戻すという「全体的な設計思想」 |
| DID(Decentralized Identifier) | 識別子 | 中央管理者に依存せず、自分で生成・管理できる「デジタル上のID(住所のようなもの)」 |
| VC(Verifiable Credential) | 証明情報 | 発行者(企業・行政など)が電子署名した「デジタル版の身分証・資格証明書」 |
| デジタルウォレット(Digital Wallet) | アプリケーション | 自分自身のDIDやVCを安全に保管し、必要な相手に選択的に提示するための「お財布ツール」 |
DID・VC・デジタルウォレットなどを用途に応じて組み合わせることで、中央集権に頼らない主体的・効率的なアイデンティティ管理システムが成立します。
将来的には、実世界の属性だけに依存しないデジタル上のアイデンティティを形成できる可能性も指摘されています。これは現在の一般的な本人確認をすぐに置き換えるという意味ではありませんが、「デジタル空間で自分とは何者なのか」を従来とは異なる方法で証明できるようになるかもしれません。
SSIの仕組みとトラストトライアングル
SSIの実際の運用では、Issuer(発行者)・Holder(保有者=本人)・Verifier(検証者)の3者によるトラストトライアングルが基本となります。
- Issuer:大学など、資格・属性を発行する主体
- Holder:証明情報を保有する本人
- Verifier:属性を表す証明書を検証する機関
例えば大学が卒業資格VCを発行し、本人がウォレットで保持、就職先が検証する流れです。ID管理の中心は常にHolderである本人です。大学がVCを発行し、本人がウォレットなどで保持し、就職先の企業に提示します。企業はVCの署名や発行者などを確認し、提示された資格を検証します。
VCの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。併せて参考にしてください。
関連記事:Verifiable Credentials(VC)とは?仕組み・DIDとの違い・デジタルID時代の活用事例
SSIで情報がやり取りされる流れ
SSIとVCを組み合わせた場合、基本的な流れは次のようになります。
① Issuerが証明情報を発行
↓
② Holderがウォレットなどで保管
↓
③ Holderが必要な情報だけをVerifierへ提示
↓
④ VerifierがIssuerや証明情報を検証
↓
⑤ 条件を満たしているかを判断
例えば年齢確認や資格情報であれば、氏名や住所まで伝えるのではなく、「一定年齢以上である」「〇〇資格の保有者である」という条件クリアの証明のみを提示する設計が考案されています。プライバシー保護の観点から、証明書そのものを送付するのではなく、必要な情報だけを開示する考え方が重視されています。
従来のフェデレーション方式との違い
フェデレーション方式では、第三者機関が本人を認証し、その結果をサービス・企業側が検証します。一方、SSIでは、本人が自分のデジタルアイデンティティや証明情報を保持し、必要な場面で提示する構造を取ることができます。
したがって、違いの本質は単純に「中央集権か分散型か」ではありません。
「認証やアイデンティティ情報を誰が管理し、誰がその情報を提示するのか」という主体の違いにあります。
SSIでは何を信頼するのか|トラストフレームワーク
SSIのトラストトライアングル(Issuer・Holder・Verifier)では、VerifierがIssuerを信頼する根拠が不可欠です。では、具体的に何を根拠に信頼するのでしょうか。
VerifierがIssuerを信頼する根拠は主に4つです。
①DID等で確認する「発行者の正当性」
②トラストリストに基づく「発行権限」
③レジストリで検証する「証明情報の状態」
④運用ルールに依拠する「ガバナンス」です。
ただし、暗号検証は「発行元や改ざん有無」を保証するものであり、「Claim(主張)自体の真実性」までは保証しません。そのためVerifierは、これら4つの要素を自らのポリシーに照らし合わせて総合的に判断します。
W3Cも明記する通り、これらの検証は「Claimが真実であること」までは保証しません。真偽の判断は、Verifierが発行者やポリシーに基づいて行う仕組みです。
参考:W3C – Verifiable Credentials Data Model v2.0/ 5 Advanced Concept – 5.1 Trust model
SSIを支えるDID(分散型識別子)とは
SSIを技術面から理解する上で欠かせないのが、DID(分散型識別子:Decentralized Identifier)です。DIDは、デジタル上の主体を識別し、 そのDIDを管理するcontroller がDIDをコントロールしていることを暗号学的に証明できる仕組みです。
ここでは、完全に従来のID方式とは異なる、DIDの概念や技術を解説します。
DIDとは何か

DIDは、W3C(World Wide Web Consortium)が標準化した新しいタイプのデジタルIDです。 分散型ID、分散型識別子と呼ばれています。
従来のID(メールアドレスや企業アカウントなど)は、特定の企業や認証局が発行・管理しているため、その企業やサービスに依存せざるを得ませんでした。
しかしDIDは、「誰かに発行してもらうものではなく、自分で自由につくれるID」です。中央の管理者に頼る必要がないため、サービスや企業の評価軸でIDが無効化される心配がありません。
参考:W3C – Decentralized Identifiers (DIDs) v1.0 becomes a W3C Recommendation
DIDと従来の識別子との違い
メールアドレスや企業が発行する会員IDは、通常、そのサービスや管理主体が識別子を発行・管理します。
一方、DIDでは設計上、特定の管理主体に依存せずに識別子を生成・管理できる仕組みとなっています。
DIDでは「どの企業のIDなのか」ではなく、「この識別子をコントロールしているのは、デジタル上のどの主体(どの人物)か」という関係を暗号学的に証明できる点に特徴があります。
DID Documentと公開鍵管理の仕組み
DIDを利用する際には、DID Documentが重要な役割を果たします。相手はまず、以下のようなDIDを受け取ります。
DIDの例

出典:W3C — Decentralized Identifiers (DIDs) v1.0 — §1.1 A Simple Example
そのDIDから対応するDID Documentを取得し、そこに記載された公開鍵などの検証情報を確認します。
DID Documentの例

出典:W3C — Decentralized Identifiers (DIDs) v1.0 — §1.1 A Simple Example
DID Documentには、DIDを管理する主体が利用する検証方法や公開鍵などを記述できます。相手は提示されたDIDをもとにDID Documentを取得し、署名などを検証するための情報を確認できます。
DID → DID Document → 公開鍵 → 署名の検証
という流れで、DID Controllerなどが秘密鍵を使って生成した署名を公開鍵で検証します。これにより、その署名がDID Documentに示された検証方法に対応する秘密鍵によって生成されたかを確認できます。
つまり、DIDは「氏名や住所等の個人情報を記載した身分証」ではありません。DID Subjectの識別や、DID Controllerとの検証可能なやり取りを支える識別子です。
参考:W3C — Decentralized Identifiers (DIDs) v1.0 — §1.1 A Simple Example
DIDメソッドと分散型台帳の関係
DIDには複数の「DIDメソッド」があり、それぞれDIDの生成・登録・解決方法が異なります。重要なのは、DID=ブロックチェーンではないという点です。
W3Cの仕様では、分散型台帳だけでなく、分散ファイルシステムや分散データベース、P2Pネットワークなど、さまざまな基盤でDIDを実装できる設計になっています。既存の集中型・フェデレーション型のID管理システムと組み合わせることも可能です。
SSIにブロックチェーンは必要なのか
SSIとブロックチェーンはしばしばセットで語られますが、両者は同義ではありません。ブロックチェーンはSSIを実現するための選択肢の一つであり、SSIそのものに必須というわけではないのです。
ここでは、両者の関係と、ブロックチェーンを使わない実装の可能性を整理します。
ブロックチェーンとSSIの関係
SSIが注目され始めた時期には、DIDや分散型アイデンティティをブロックチェーンや分散型台帳と組み合わせる構想が多く提案されました。
分散型台帳には、複数の主体で情報を共有し、特定の一者だけに依存しない基盤を構築できるという特徴があります。そのため、DIDの登録情報や公開鍵などを扱う基盤として利用する方式が検討されてきました。
一方、W3CのDID仕様自体は特定の分散台帳を前提としていません。DIDメソッドによってはブロックチェーンを使わない方式も存在します。
| 開発者の視点:XTELA JAPAN代表取締役 小幡拓弥 SSI(自己主権型アイデンティティ)を実現するうえで、ブロックチェーンは必須ではありません。SSIの本質は、重要なアイデンティティ情報を特定の管理者に任せきりにするのではなく、本人が自ら管理・保持できるようにすることにあります。 ブロックチェーンは、その実現方法の一つとして活用できますが、SSIそのものがブロックチェーンを前提とした概念ではありません。 |
ブロックチェーン以外の実装アプローチ
DIDは、分散型台帳だけでなく、Webなど既存のインターネット基盤を利用して実装することもできます。DID Coreでは、特定の技術基盤に限定せず、さまざまなシステムと組み合わせられる設計になっています。そのためSSIを検討する際は、単に「ブロックチェーンを使うか」ではなく、本人によるコントロール、プライバシー、相互運用性、信頼モデルなどの要件に応じて、適切なDIDメソッドや基盤を選択することが重要です。
ブロックチェーンを活用した開発の費用感や進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:ブロックチェーン開発の費用・コストを解説
SSI導入によるメリット
SSIのメリットは、本人がアイデンティティ情報の管理主体になれることだけではありません。必要な情報だけを提示できるプライバシー上の利点や、企業側の情報管理負担を軽減できる可能性があるということです。
ただし、メリットの大きさは実装方法や利用するエコシステムによっても異なります。
個人情報の自己管理が可能になる
SSIでは、利用者が自分のアイデンティティ情報を主体的に管理し、必要に応じてサービス提供者へ提示することを目指します。サービスごとに個人情報を預ける従来の仕組みと比べ、本人が情報の提示先や範囲を判断しやすくなることが第一のメリットです。
プライバシー保護と選択的開示を実現できる
SSIとVCを組み合わせることで、必要な情報だけを提示する「選択的開示」を実現できる場合があります。
例えば年齢確認では、氏名や住所などを提示せず、「18歳以上である」という条件を満たしていることだけを証明する方法が考えられます。こうした仕組みは、不要な個人情報の提供を抑え、プライバシー保護につながります。なお、実現方法は利用するVCの仕様や暗号技術などによって異なります。
データ漏えいリスクや運用コストを低減できる
企業側にとっても、サービス利用者の個人情報を必要以上に収集・保管しない仕組みを構築できれば、保有する個人情報を減らし、データ管理の負担や漏えいリスクの低減につながる可能性があります。
例えば、必要な属性だけを検証できれば、本人確認書類の情報全体をサービス側で保存する必要性を減らせます。ただし、SSIを導入するだけでリスクがなくなるわけではありません。ウォレットや秘密鍵、Issuer(発行者)、Verifier(検証者)など、それぞれの運用・セキュリティ対策が必要です。
秘密鍵の管理方式については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:秘密鍵管理にMPCが必要な理由とは?toCサービスのウォレット設計を解説
SSI普及に向けた課題と社会実装の現状
SSIの普及には、DIDやVCなどの技術仕様を整えるだけでは十分ではありません。誰が証明を発行し、誰がそれを信頼し、どのようなルールで検証するのかという、エコシステム全体の仕組みが必要です。
異なるシステムや国・地域をまたいで利用できるのかという、ガバナンス、法制度、相互運用性、運用ルールまで含めて考える必要があります。
ここで、現状を踏まえた今後のSSIの課題を整理していきます。
技術課題よりもエコシステム構築が重要
例えば大学が発行するデジタル卒業証明を企業が受け取る場合、大学、学生、企業がそれぞれSSI対応の仕組みを利用できなければなりません。
さらに、企業側は「この大学を本当に信頼してよいのか」を判断する必要があります。
このため、SSIでは技術仕様だけでなく、Issuerの認定、Verifierのルール、証明情報の失効、ガバナンス、法制度、相互運用性などが重要になります。日本総研の調査でも、SSIの実現にはVCやDIDだけでなく、関係者の振る舞いや法制度など、技術以外の要素が大きく関係すると指摘されています。
| 開発者の視点:XTELA JAPAN代表取締役 小幡拓弥 実装者の視点では、日本でSSIを普及させるうえでの大きな課題は、証明を発行・検証する主体を含めたインフラやネットワークの構築です。 SSIは本人だけで完結する仕組みではなく、信頼できる第三者が証明を発行し、それをサービス側が検証できる環境が必要になります。たとえ本人が自分のデータを管理できても、それを社会の中で信頼できる証明として利用するためには、認証機関などの参加者が存在することが前提となります。 そのため、個別のサービスを開発するだけでなく、SSIを支える社会的なネットワークをどう形成するかが普及に向けた重要な課題となります。 |
国内外の取り組みと今後の展望
SSIを支えるDIDやVCの標準化・実装は、国内外で進んでいます。日本ではデジタル庁がVCやDigital Identity Wallet(DIW)のガバナンスや社会実装を検討しています。
米国ではNISTがデジタルIDのガイドラインを整備し、ユーザー管理型ウォレットやVCを含む仕組みを扱っています。
EUではEUDI Walletの大規模パイロットが進み、教育資格などのデジタル証明も対象となっています。 これらはSSIそのものの普及を意味するものではありませんが、本人が自身のデジタル情報を管理・提示する仕組みが、標準化・制度化・実装へと進んでいることを示しています。
参考:
NIST「Digital Identity Guidelines SP 800-63-4」
European Commission – European Digital Identity
SSIの具体的な活用事例
SSIは、行政や本人確認だけでなく、学歴・資格などの証明、Web3など、さまざまな分野での活用が考えられます。DIDやVC、ウォレットなどを組み合わせることで、本人が証明情報を保有し、必要な相手に必要な情報だけを提示するという仕組みを実現できます。
最後にどのような活用方法があるのか、具体例を紹介します。
デジタルID・本人確認
行政サービスや金融サービスなどでは、デジタルIDを利用した本人確認が重要になります。
SSIの考え方を取り入れることで、本人が自分のID情報を保持し、サービスごとに必要な情報だけを提示する仕組みを構築できます。EUのデジタルIDウォレットでも、行政・民間サービスへのアクセスだけでなく、本人がデジタル文書を保管し、必要な情報を選択して提示する仕組みが整備されています。
学生証・資格証明書
教育分野では、学位、卒業証明、資格、成績などをデジタル化し、本人が保有する用途が考えられます。
例えば大学が発行した卒業証明をウォレットに保存しておけば、就職や進学の際に、紙の証明書を提出する代わりに検証可能なデジタル証明を提示できます。VCは、大学の学位や運転免許証など、現実世界で利用されている資格・証明をWeb上で検証可能な形にすることを想定しています。
Web3・分散型サービス
Web3では、DIDやウォレットを利用して、デジタル上の活動とアイデンティティを関連付ける活用方法が考えられます。例えば、特定のサービスでの活動履歴や保有する資格などを、デジタル上の主体に関連付けて扱うことができます。
ただし、オンチェーン上の活動が、そのまま本人の信用を証明するわけではありません。 何を実績として評価するのか、誰が情報を証明するのか、どのようなルールで信頼するのかを設計することが重要です。
また、製品のライフサイクル情報をデジタル証明として管理するデジタルプロダクトパスポート(DPP)でも、VCやDIDの技術が活用されています。
関連記事:デジタル製品パスポート(DPP)とは?対象製品・時期・企業の準備を解説
まとめ|SSIとDIDは次世代デジタルアイデンティティの基盤となるか
SSI(自己主権型アイデンティティ)は、デジタル社会における新しい信頼のカタチとして大きな可能性を示しています。しかし、それは一夜にして既存のID制度を置き換えるものではありません。
まずはデジタル証明の基盤整備や、行政をも巻き込んだエコシステム全体の構築が不可欠です。 そして、企業においては、足元の実務的な基盤づくりを経て、その先に見据える次世代のSSI・DID活用までのロードマップを正しく描くことが、これからのデジタル社会を生き抜く鍵となります。
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