デジタル製品パスポート(DPP)とは?対象製品・時期・企業の準備を解説
2026/08/17
2026/08/17
目次
EU市場で製品を販売する企業にとって、製品情報のデジタル開示が避けられない要件になりつつあります。その中核がデジタル製品パスポート(DPP)です。2027年2月にはバッテリーで義務化が始まり、鉄鋼・繊維など他分野へも順次拡大します。
本記事では、DPPの制度概要と対象製品・スケジュールを整理したうえで、企業が何を準備し、どのようなシステムを構築すべきかを解説します。あわせて、ブロックチェーンの活用が有効になるケースの見極め方も示します。
デジタル製品パスポート(DPP)とは

デジタル製品パスポート(DPP)とは、製品の原材料・製造過程・環境負荷・リサイクル情報などを、QRコードなどを通じて確認できるようにするEUの制度です。2024年7月に発効したエコデザイン規則(ESPR)を法的枠組みとし、EU市場で販売されるほぼすべての物理的製品が将来的な対象とされています。
DPPの概要 ― 製品のライフサイクル情報を開示する仕組み
DPPは、製品に紐づくデジタルな情報の入れ物です。製品にQRコードなどのデータキャリアを付与し、そこから原材料・製造地・環境性能・修理方法・廃棄方法といった情報にアクセスできるようにします。
消費者は購入前に環境性能や修理可能性を確認でき、リサイクル業者は分解・素材回収に必要な情報を得られ、当局は市場監視や通関手続きで適合性を検証できます。紙の書類でやり取りされてきた製品情報を、標準化されたデジタル形式に置き換える制度です。
法的枠組み ― エコデザイン規則(ESPR)との関係
DPPの法的根拠は、2024年7月に発効したエコデザイン規則(ESPR:Regulation (EU) 2024/1781)です。ただし、ESPR自体は枠組みを定める法令であり、具体的な要件は製品グループごとの「委任法(Delegated Act)」で個別に規定されます。
つまり、「自社製品に何がいつから求められるか」は、ESPR本体ではなく、該当する製品グループの委任法が採択されて初めて確定します。ESPRの適用除外は食品・飼料・医薬品などに限られており、対象範囲は極めて広く設定されています。なお、DPPを求める法令はESPRだけではありません。EU電池規則、包装・包装廃棄物規則(PPWR)、玩具安全規則、建設製品規則などにも同様の要求が組み込まれています。(参考:エコデザイン規則(ESPR)本文)
EUがDPPを導入する背景 ― サーキュラーエコノミー戦略
DPPは、EUが進めるサーキュラーエコノミー(循環経済)政策の一環です。資源を循環させるには、製品が何でできていて、どう修理・分解・リサイクルできるかという情報が不可欠です。しかし従来、こうした情報はサプライチェーンの各所に分散し、製品が市場に出た時点で追跡できなくなっていました。
DPPは、この情報の断絶を解消し、製品のライフサイクル全体で情報が引き継がれる仕組みを作ることを狙いとしています。環境性能を偽って訴求するグリーンウォッシュへの対策という側面も持ちます。
DPPの対象製品と適用スケジュール

DPPは製品カテゴリごとに段階的に適用され、最初の義務化はバッテリー(2027年2月18日)です。EU域外の企業であっても、EU市場に製品を投入する場合は対応が求められるため、日本の輸出企業にとって期限のある規制対応です。
先行するバッテリーパスポート ― 2027年2月18日に義務化
DPPの最初の適用例が、EU電池規則に基づくバッテリーパスポートです。2027年2月18日以降、EV用バッテリー、容量2kWh超の産業用バッテリー、電動自転車など軽輸送手段(LMT)用バッテリーをEU市場に投入する場合、デジタルパスポートの付与が義務づけられます。
記載が求められるのは、原材料の由来、カーボンフットプリント、リサイクル材の含有率、性能・耐久性などです。バッテリー単体のメーカーだけでなく、バッテリーを組み込んだ製品をEUに輸出する企業も影響を受けるため、自動車・電機をはじめとする日本企業にとって最初の対応期限になります。(参考:EU電池規則(Regulation (EU) 2023/1542))
鉄鋼・繊維など優先分野と今後の展開
バッテリー以外の主な対象は、2025年4月採択のESPRワークプラン(2025〜2030年)と、関連するEU規則で示されています。委任法の採択予定時期は以下の通りです。
| 製品グループ | 委任法の採択予定 | 備考 |
| バッテリー | 採択済み | 2027年2月18日から義務化(EU電池規則に基づく) |
| 鉄鋼 | 2026年 第4四半期 | ESPRの製品グループでは最も早い |
| 繊維・アパレル、 タイヤ、アルミニウム | 2027年 第3〜4四半期 | 繊維は環境負荷の大きさから優先度が高い |
| 建設製品 | 2027年 第2四半期 | 建設製品規則(CPR)に基づく |
| 家具 | 2028年 | ― |
| マットレス | 2029年 | ― |
この時期はあくまで委任法の「採択」予定です。欧州委員会は、ESPR委任法の採択後、事業者に最低18か月の移行期間を設けるとしています。
ただし、この18か月でサプライチェーン全体のデータ収集体制をゼロから構築するのは現実的ではありません。準備は委任法の内容が固まる前から始める必要があります。
EU域外の日本企業も対象になる
DPPの義務は、EU市場に製品を投入する事業者に課されます。製造がEU域内か域外かは問われないため、日本から輸出する企業も対象です。責任を負うのは製品をEU市場に投入する「経済事業者」で、通常は製造者または輸入者です。
重要なのは、企業規模による適用除外がない点です。ESPRの他の規定には中小企業への配慮が設けられているものもありますが、DPPの義務については従業員5人の企業でも5,000人の企業でも同じ要件が適用されます。「自社は小規模だから対象外」という判断はできません。
では、規制対応を超えて、ブロックチェーンは日本企業のビジネスにどう関わるのでしょうか。
開発者の視点:XTELA JAPAN代表取締役 小幡拓弥
消費者に『履歴の真正性』の価値を直接伝えるのは難しいため、ブロックチェーンの実需はまずBtoBの領域から来ると見ています。たとえば中古車は、履歴を偽装することが利益につながりやすく、改ざん耐性が直接的な価値を持ちます。国をまたぐ取引では記録の共通フォーマットがなく、データが正しく伝わらないことも課題です。ブロックチェーンなら、表現方法は各社で変えてもデータ自体は統一できる。DPPが求めているのはまさにこの構造です。
DPPで記録・開示が求められる情報
DPPには、製品の識別情報に加え、原材料の由来、カーボンフットプリント、リサイクル材の含有率、修理・分解に関する情報などの記載が求められます。これらの情報は製品に付与されたQRコードなどのデータキャリアを通じて、消費者・事業者・当局がアクセスできる形で提供します。
記載項目 ― 原材料・カーボンフットプリント・リサイクル情報など
具体的な記載項目は製品グループごとの委任法で決まりますが、ESPRが想定する情報カテゴリは共通しています。主なものは次の通りです。
製品の識別情報:製品固有の識別子に加え、事業者や製造施設を特定する識別子。サプライチェーンを遡って責任の所在を追跡できるようにします。
素材・化学物質:使用されている材料の構成、含まれる化学物質、リサイクル材の含有率。
環境性能:カーボンフットプリント、耐久性、エネルギー効率など。
修理・分解・廃棄:修理可能性、スペア部品の入手方法、分解手順、適切な廃棄・リサイクル方法。
記録の粒度も設計上の論点です。製品モデル単位か、ロット単位か、1点ごとかによって必要なデータ量とシステムの複雑さが変わります。細かくしすぎるとIT・サプライヤー双方のコストが膨らみ、粗すぎると市場監視の要件を満たせません。
データキャリアとアクセス方法 ― QRコード・NFC
DPPへのアクセスは、製品に付与されたデータキャリアを介して行われます。QRコード、バーコード、NFCタグなど、物理的な製品とデジタル情報を結びつける機械可読な識別子が用いられます。データキャリアは製品に添付され、消費者や事業者が無償で容易にアクセスできることが求められます。
アクセス権限は役割に応じて分けられる設計です。市場監視当局は法執行に必要な全データにアクセスできる一方、消費者への開示は限定的で、他の経済事業者(輸入者・流通業者・リサイクル業者など)は法的義務の遂行に必要な範囲にアクセスできます。企業秘密を保護しながら、各主体が必要な情報を得られる仕組みです。
情報の更新・保守は誰がどこまで責任を負うのか
DPPは発行して終わりではありません。ESPRが定めるDPPは分散型のデータシステムであり、中央のデータベースに全情報が集約されるのではなく、製造者・輸入者・修理業者・リサイクル業者といった各事業者が、それぞれの責任範囲でデータを管理します。製品がライフサイクルの各段階を進むにつれ、情報も引き継がれ更新される想定です。
この分散構造は、システム設計に直結します。2026年7月20日、欧州委員会はDPPレジストリとテスト環境を稼働させました。レジストリは製品固有の識別子と登録データを保持するEU共通のデータベースです。経済事業者がDPP標準に基づいて製品に付与した固有識別子を登録し、製品パスポートの所在情報とあわせて記録します。輸入品は通関時にこの識別子で確認され、EU域内で製造する製品も上市前の登録が必要です。
一方、DPPの完全な製品情報はレジストリではなく、事業者またはDPPサービスプロバイダ側に保管されます。
あわせて2026年7月には、レジストリに関する実施法(Implementing Act)とDPP標準に関する実施決定が採択され、登録や技術仕様のルールが整備されました。企業側には、製品情報を自社またはサービスプロバイダ側で保持し、規定の期間にわたって利用可能な状態を維持し続ける運用責任が生じます。(参考:欧州委員会 デジタル製品パスポート)
DPP対応で企業が構築すべきシステムと準備
DPP対応の本質は、情報開示そのものではなく、サプライチェーン全体から正確なデータを収集・管理し続ける仕組みの構築にあります。自社だけでは完結せず、上流サプライヤーを巻き込んだデータ連携の設計が最大の課題です。
最大の課題はサプライチェーン全体からのデータ収集
DPPに記載する情報の多くは、自社の中だけでは揃いません。原材料の由来は素材メーカーが、リサイクル材の含有率は再生材の供給元が持つ情報です。多段階のサプライチェーンでは、二次・三次サプライヤーまで情報を遡る必要が生じます。
これらのサプライヤーは自社の直接の取引先とは限らず、規制対応の必要性を共有していない場合もあります。データ提供の依頼が現場の負担になれば、精度の低い情報や未回答が増え、DPPの信頼性が揺らぎます。技術的な実装より、この「データをどう集めるか」の設計が成否を分けます。
製品情報・履歴管理システムに必要な3つの機能
DPP対応のシステムに求められる機能は、大きく3つに整理できます。
1. データ収集機能:サプライヤーから必要な情報を受け取る仕組みです。フォーマットの標準化、入力負荷を下げるインターフェース、既存のEDIやAPIとの連携、未回答・不備の検知が要件になります。
2. データ管理機能:収集した情報を製品と紐づけて保持する仕組みです。製品マスタとの連携、ロットや個体単位での粒度管理、履歴の保持と更新、規定期間のデータ保存が求められます。既存のPLM・ERPとの統合設計が中心的な論点になります。
3. 開示機能:DPPとして外部に情報を提供する仕組みです。データキャリアの発行と製品への紐づけ、役割別のアクセス権限制御、レジストリへの登録、バックアップ体制の確保が必要です。
準備の進め方 ― 対象確認からシステム構築までのステップ
委任法の内容が確定していない段階でも、着手できる準備は多くあります。次の順序で進めるのが現実的です。
ステップ1:対象製品の特定:自社の製品ラインをESPRワークプランの製品グループと照合し、どの製品がいつ頃対象になるかを把握します。
ステップ2:記載項目の棚卸し:バッテリーパスポートなど先行事例の要求項目を参考に、自社製品で求められる可能性が高い情報を洗い出します。
ステップ3:データギャップの特定:洗い出した項目のうち、現在すでに保有している情報と、サプライヤーから新たに取得する必要がある情報を切り分けます。ここが準備の中核です。
ステップ4:サプライヤーとの合意形成:データ提供の依頼範囲・形式・頻度を取引先と調整します。時間がかかる工程のため、早期の着手が効果的です。
ステップ5:システムの設計・構築:既存のPLM・ERPを起点に、不足する収集・管理・開示の機能を設計します。委任法の確定を待たずに、拡張しやすい構造で作ることが重要です。
Web3・ブロックチェーン事業のご相談
サプライチェーンの由来証明やデータの改ざん耐性など、ブロックチェーン領域の設計・開発を支援しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
導入判断の無料相談はこちら →DPP対応にブロックチェーンを活用できるケース
DPPは特定の技術を義務づけておらず、通常のデータベースでも対応可能です。ブロックチェーンが有効になるのは、複数の企業をまたいだデータの改ざん耐性や検証可能性が、取引先・監査対応の要件になる場合です。
複数企業をまたぐデータの信頼性が求められる場合に有効
ブロックチェーンの価値は、記録が後から書き換えられていないことを技術的に証明できる点にあります。DPP対応で有効になるのは次のような場面です。
多段階サプライチェーンでの由来証明:二次・三次サプライヤーまで遡る情報について、各段階の記録が改ざんされていないことを示せます。
競合を含む企業間でのデータ共有:特定の企業がデータを一元管理する構成に参加者が同意しない場合、中立的な基盤として機能します。
監査・第三者検証のコスト削減:記録の正当性を都度書類で証明する手間を減らし、リサイクル材含有率などの主張を検証可能な形で残せます。
ブロックチェーンが不要なケースとの見極め方
一方で、次のようなケースではブロックチェーンを導入する合理性がありません。データの発生から管理までが自社内で完結する場合、既存のデータベースの方が処理性能・コスト・運用のいずれでも優れています。サプライヤーが少数で、契約と監査によって情報の信頼性を十分に担保できる場合も同様です。
判断の基準はシンプルです。「他社が提供したデータを、自社や第三者が信頼できる根拠が必要か」という問いに立ち返ることです。この要件がなければ、DPP対応は既存システムの拡張で十分に実現できます。
この「必要かどうか」の判断について、ブロックチェーン開発の現場からは次のような見方もあります。
開発者の視点:XTELA JAPAN代表取締役 小幡拓弥
ブロックチェーンの価値は、記録が改ざんされないことと、第三者がいつでも検証できることです。ただ、それ以上に重要なのは『書き込む瞬間のデータがすでに虚偽だったら意味がない』という点です。誰がどう記録し、偽装をどう防ぐかはサービスごとに固有の設計課題であり、ブロックチェーン側の話ではありません。履歴の保存自体は特別な工夫なくできますが、成否を分けるのはその周辺の仕組みです。
実装パターン ― 既存システムとの組み合わせ方
実務的に現実的なのは、すべてをブロックチェーンに載せる構成ではなく、既存システムを主体としたハイブリッド構成です。製品情報の管理はPLM・ERPで行い、DPPとしての開示もそこから生成します。そのうえで、由来証明やリサイクル材含有率など、第三者への証明が必要な情報についてのみ、記録のハッシュ値や証明データをブロックチェーンに残します。
この構成なら、既存の業務システムを大きく作り替えることなく、証明が必要な部分にだけブロックチェーンの改ざん耐性を適用できます。処理性能やコストの制約も抑えられ、段階的に導入しやすい設計です。
デジタル製品パスポートに関するよくある質問
DPP対応の検討時によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
EU向けの直接輸出がない企業も対応が必要ですか?
直接の輸出がなくても、対応が必要になる可能性があります。自社の製品や部品が取引先を経由してEU市場に投入される場合、その事業者からDPPに必要な情報の提供を求められます。義務そのものは負わなくても、サプライヤーとしてデータを提供する体制は必要です。取引先がEUに輸出しているかを確認しておくことを推奨します。
中小企業も対象になりますか?
対象になります。ESPRのDPP義務には、企業規模による適用除外が設けられていません。従業員数の多寡にかかわらず、EU市場に対象製品を投入する事業者には同じ要件が適用されます。まず自社製品が対象になるかの確認から始めてください。
いつから準備を始めるべきですか?
委任法の確定を待たずに、今から着手すべきです。最も時間がかかるのはシステム開発ではなく、サプライヤーからのデータ収集体制の構築です。取引先との調整や収集フローの定着には年単位の時間がかかります。委任法採択後の移行期間は最低18か月ですが、この期間だけで体制をゼロから作るのは困難です。
DPP対応システムの開発費用はどのくらいかかりますか?
対象製品の数、記録の粒度、既存システムとの連携範囲によって大きく変わります。既存のPLM・ERPを起点に開示機能を追加する構成なら比較的抑えられますが、データ収集基盤の新規構築やブロックチェーンによる証明機能を含む場合は、数百万円から数千万円規模になることもあります。対象製品とデータギャップを特定したうえで、段階的に投資する計画を推奨します。
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まとめ
デジタル製品パスポート(DPP)は、製品のライフサイクル情報をデジタルで開示するEUの制度です。2027年2月のバッテリーを皮切りに鉄鋼・繊維など優先分野へ拡大し、EU市場に製品を投入する企業は規模を問わず対象となります。
対応の本質は、開示の仕組みではなく、サプライチェーン全体からデータを収集し管理し続ける体制の構築にあります。最も時間を要するのはサプライヤーとのデータ連携の確立であるため、委任法の確定を待たず、対象製品の特定とデータギャップの洗い出しから着手してください。
なお、DPP対応にブロックチェーンは必須ではありません。複数企業をまたぐデータの証明が要件になる場合に、既存システムと組み合わせる選択肢と捉えるのが適切です。
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