カーボンクレジットとは?仕組み種類・J-クレジット・信頼性の課題を解説
2026/09/14
2026/09/14
目次
脱炭素への取り組みを進める企業にとって、カーボンクレジットは、削減しきれない排出量を埋め合わせる手段として広く使われる一方、種類や制度が入り組んでいるため、全体像をつかみにくい分野でもあります。
本記事では、カーボンクレジットの仕組みと種類、日本のJ-クレジット制度、メリットや価格の目安を整理したうえで、信頼性の課題と、ブロックチェーンで解決できる部分・しなくてよい部分を実装者の視点から切り分けます。
カーボンクレジットとは ― CO2削減量を取引できる仕組み

カーボンクレジットとは、省エネや森林管理などによって削減・吸収された温室効果ガスの量を数値化し、証書として売買できるようにした仕組みで、自社の努力だけでは削減しきれない排出量を他者の削減分で埋め合わせる手段として活用されています。
定義 ― 削減・吸収したCO2を「証書」にして売買する
カーボンクレジットとは、「対策をしなかった場合の排出量」と「実際の排出量」の差分を削減量として認証し、取引できる形にしたものを指し、単位にはCO2換算のトン(t-CO2)を用います。
例えば、古いボイラーを高効率な設備に入れ替えた工場では、従来のまま使い続けた場合に比べて排出量が減り、その差分が第三者の審査を経て認証されると、クレジットとして販売できるようになります。
なぜ企業に必要とされるのか ― 脱炭素目標とGX-ETSの本格稼働
背景には、企業に求められる脱炭素の水準の高まりがあります。製造工程や物流に伴う排出をゼロにするのは難しく、自社の努力だけでは目標に届かない部分が生じるためです。
加えて2026年度からはGX-ETS(GX排出量取引制度)が本格稼働し、CO2の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者に参加が義務づけられました。対象外の企業にも、取引先からの要請やサプライチェーン全体の排出量開示を通じて影響が広がっています。
排出量取引・カーボンオフセットとの違い
混同されやすい3つの言葉は、それぞれ指すものが違います。
| 用語 | 意味 |
| カーボンクレジット | 削減・吸収したCO2量を認証し、証書として売買できるようにしたもの |
| 排出量取引 | 企業ごとに排出の上限を割り当て、過不足を売買する制度(キャップ・アンド・トレード) |
| カーボンオフセット | 削減しきれない排出量を、クレジットの購入などで埋め合わせる行為 |
カーボンクレジットは「取引される対象」、排出量取引は「制度の枠組み」、カーボンオフセットは「クレジットを使った行為」を指します。
非化石証書・グリーン電力証書との違い
環境価値を取引する証書には、カーボンクレジットのほかに非化石証書とグリーン電力証書があり、主な違いは認証する主体と対象範囲です。
J-クレジット:国が認証し、省エネ・再エネ・森林管理など幅広い活動を対象とする制度です。電力に限らずCO2の削減量・吸収量そのものを扱い、事業者の業種を問わず創出できます。
非化石証書:非化石電源で発電された電気の「非化石価値」を証書化したものです。日本卸電力取引所(JEPX)の非化石価値取引市場で取引され、証書の種類によって取引主体や利用方法が異なります。
グリーン電力証書:民間の第三者機関が認証する制度で、再生可能エネルギーで発電された電力の環境価値を証書化したものです。認証された環境価値を、証書発行事業者を通じて利用できます。
電力の環境価値だけを求めるなら非化石証書やグリーン電力証書、電力以外の削減活動も対象にしたいならカーボンクレジットが選択肢です。
カーボンクレジットの種類

カーボンクレジットは、誰が認証するかによって「国が認証するもの」と「民間団体が認証するもの」に大別されます。さらに、省エネによる削減系と森林吸収などの吸収系という創出方法の違いもあり、信頼性や価格の水準にも差が生じます。
国が認証するクレジット ― J-クレジット・JCM
国内の代表的な制度がJ-クレジットで、経済産業省・環境省・農林水産省が共同で運営し、国内の削減・吸収活動を認証しています。制度の詳細は次章で解説します。
もう一つのJCM(二国間クレジット制度)は、日本の脱炭素技術を途上国に導入し、そこで生まれた削減量を両国で分け合う仕組みです。政府間の合意に基づいて運営され、J-クレジットと同様に国が関与するため、信頼性の面で評価されやすい特徴があります。
民間が運営するボランタリークレジット ― VCS・Gold Standardなど
国際的には、民間団体が独自の基準で認証するボランタリークレジットも広く流通しています。代表例はVCS(Verified Carbon Standard)やGold Standardで、世界各地の森林保全や再エネ事業などから創出されています。
これらが取引されるのは「ボランタリー市場」と呼ばれる自主的な市場です。一方、GX-ETSのように制度上の義務を果たすための市場は「コンプライアンス市場」と呼ばれ、利用できるクレジットの種類が定められているため、購入前に自社の目的に使えるかどうかを必ず確認してください。
削減系と吸収系 ― 創出方法による違い
創出方法による分類には、削減系と吸収系があります。削減系は、省エネ設備の導入や再エネへの切り替えで「排出を減らした」分を認証し、吸収系は森林の適切な管理などで大気中のCO2を「吸収した」分を対象とします。
吸収系は森林の成長という自然のプロセスに依存するため、災害による焼失や伐採で吸収した分が失われるリスクを抱えており、この違いは後述する信頼性の議論や価格差にもつながります。
J-クレジット制度の仕組みと活用方法
J-クレジット制度は、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの利用による排出削減量、適切な森林管理による吸収量を国が認証する制度で、国内クレジット制度とJ-VER制度の統合によって創設されました。現在は、企業の脱炭素の取り組みを裏づける仕組みとして活用されています。
制度の概要 ― 国が認証する日本の仕組み
J-クレジット制度では、削減・吸収の方法ごとに「方法論」と呼ばれる算定ルールが定められています。事業者はこれに沿ってプロジェクトを計画・申請し、第三者機関の審査を経て国の認証を受けます。
対象となる活動は、ボイラーや空調設備の更新、太陽光発電の導入、森林の間伐など多岐にわたり、大企業だけでなく中小企業や自治体、森林所有者も創出者になれる点が大きな特徴です。
取得・活用の流れ ― 登録簿システムと東証カーボン・クレジット市場
クレジットを保有・移転するには、J-クレジット登録簿システムに口座を開設します。取引方法は主に、売り手と買い手が直接交渉する相対取引、事務局が実施する入札販売、市場での売買の3つです。
2023年10月には、東京証券取引所にカーボン・クレジット市場が開設されました。日次の取引価格と出来高が公開されるため、相場を確認しながら購入を判断できます。(参考:日本取引所グループ カーボン・クレジット市場)
どこで使えるのか ― 温対法・省エネ法やCDP・SBT・RE100での活用
取得したクレジットの使い道は、購入を検討する企業にとって重要な判断材料です。J-クレジットは、温対法の調整後排出量の算定などに活用できます。また、省エネ法では、非化石電気・非化石熱に由来するなど、一定の要件を満たすJ-クレジットを非化石エネルギーのみなし使用量として活用できます。
CDP・RE100といった国際的なイニシアチブへの対応にも用いられますが、SBTでは注意が必要です。SBTiは、クレジットの購入を科学的削減目標の達成分として計上することを認めていないため、クレジットは自社の削減とは別枠の取り組みとして扱う必要があります。利用できる用途は種類によって異なるので、目的に合ったものを選定してください。
カーボンクレジットのメリット・デメリットと価格の目安
カーボンクレジットは、購入する企業と創出する企業の双方にメリットをもたらす一方、手続きにかかる時間とコスト、価格の変動、「購入だけで済ませてしまう」リスクなどの注意点もあります。両方を理解したうえで活用を判断してください。
購入する企業のメリット
最大のメリットは、自社の努力では削減しきれない排出量を埋め合わせられる点です。製造工程や輸送に伴う排出は、設備投資を進めても短期的にゼロにするのが難しい場合も少なくないため、その差分をクレジットで補います。
加えて、温対法・省エネ法の報告への活用や、環境への取り組みを対外的に示す材料となり、取引先からの要請に応える手段としても機能します。
創出する企業のメリット
創出側の直接的なメリットは売却益であり、省エネ設備の導入に必要な初期投資の一部を、削減分のクレジット販売による収益で回収できます。
もう一つのメリットは対外的な評価です。クレジットの創出によって環境への取り組みを国の認証という形で裏づけられるため、中小企業にとっては環境意識の高い企業として認知される契機にもなります。
デメリットと注意点、価格の目安
一方で、主なデメリットは3つあります。
手続きの負担:創出には方法論に沿った計画策定、モニタリング、第三者審査が必要で、時間とコストがかかります。
価格の変動:需要と供給によって価格が動くため、創出時に想定した金額で売却できるとは限りません。
自社削減が後回しになるリスク:購入で埋め合わせられるがゆえに、本来進めるべき自社の削減が停滞する懸念があるため、クレジットはあくまで補完手段と位置づけることが重要です。
価格は、クレジットの種類によって水準が異なります。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場では、省エネルギー、再エネ(電力)、森林などの区分ごとに価格情報が公表されています。価格は需給によって日々変動するため、検討時には最新の日報で確認してください。(参考:日本取引所グループ カーボン・クレジット市場日報)
カーボンクレジットの信頼性をめぐる課題
カーボンクレジットには、二重計上やグリーンウォッシュ、削減量が本当に実現したのかを検証する難しさなど、信頼性をめぐる課題が指摘されています。
二重計上(ダブルカウント)の問題
二重計上とは、同じ削減量が複数の主体によって重複して計上される問題で、クレジットを売却した企業が自社の削減実績として計上し、購入した企業もオフセットとして計上すれば、一度しか行われていない削減が二度数えられてしまいます。
制度側では、登録簿システムでクレジットを一意に管理し、使用分を無効化(償却)することで重複を防いでいます。ただし、異なる制度をまたぐ取引では管理が複雑になる点に注意が必要です。
グリーンウォッシュ批判 ― 「買っただけ」で終わるリスク
グリーンウォッシュとは、実態を伴わないまま環境に配慮しているように見せる行為です。カーボンクレジットは購入によって数字の上では排出量を相殺できるため、自社の削減努力を伴わない環境訴求に使われると、批判を受けやすくなります。
海外では、購入したクレジットの品質が低く、宣伝していたほどの削減効果がなかったとして批判を受けた事例も報じられました。そのため、「何を買ったか」だけでなく「自社で何をしてきたか」を示すことも、信頼を得るうえで重要です。
本当に削減されたのかを検証する難しさ
より根本的な課題は、削減量を検証する難しさにあります。削減量は直接目で見て確認できるものではなく、設備情報や燃料・電力の使用量といったモニタリングデータと算定方法に基づいて算出・検証されるため、入力データと計測方法の信頼性が削減量そのものの信頼性を左右します。
XTELAでも、実装を考えるうえでこの点を重視しています。申請時に宣言した設備の稼働状況や原材料の使用実態が、その後も申請どおり維持されているかは、証拠を求めない限り確認できません。製造の過程で素材をより安いものに変えるといったことも起こり得ます。制度側にはモニタリングと第三者による検証(MRV)を通じて削減量を確認する仕組みがあるものの、検証の密度と運用コストはトレードオフの関係にあります。
ブロックチェーンで解決できる部分・しなくてよい部分
カーボンクレジットにブロックチェーンを活用する方法はいくつかあります。そのなかでも、J-クレジットのように既存の登録簿が整備されている領域で私たちが特に価値を見出しているのは、「クレジットの残高を管理する」用途ではなく、「その企業がいつから取り組んできたか」という履歴を検証可能な形で残す用途です。用途の切り分けを誤ると、不要な複雑さやコストにつながります。
有効なのは「保有量」ではなく「取り組みの歴史」の証明
カーボンクレジットは、企業の信用や対外的な訴求と結びついて語られる場面が多く、透明性が重視されるこの文脈では、ブロックチェーンを活用する意味があります。
特に有効なのは、保有量ではなく「いつから取り組んできたか」という歴史の証明です。開始時点から継続的に記録を積み上げることで、いつ記録され、その後改変されていないかを確認できる状態にできます。長年続けてきた企業はその積み重ねを検証可能な形で示せる一方、最近になって環境配慮を打ち出した企業では、記録が数年分しかないことも明らかになります。
グリーンウォッシュ対策では、この点が見落とされがちです。透明性を示すには、開示する内容だけでなく、開示プロセス自体の透明性も欠かせません。この「二重の透明性」のうち、後者を技術的に支えることがブロックチェーンの役割です。
ブロックチェーンがなくても回る部分 ― 残高管理は既存システムで足りる
一方、ブロックチェーンがなくても回るのが、クレジットの「残高としての性質」、つまり誰が何トン保有しているかという管理です。
この用途であれば、通常のデータベースで十分に処理できます。特にJ-クレジット制度のように、国が運営する登録簿システムですでに保有と移転が管理されている場合、信頼できる管理主体が存在する領域へあえて分散型の仕組みを持ち込む必然性は高くありません。
認証の履歴に特化する実装の考え方
この切り分けから導かれるのが、クレジットそのものをトークン化するのではなく、認証の履歴に特化して記録するという実装方針です。
具体的には、譲渡できない形式のトークン(ソウルバウンドトークン)を使い、認証を受けた事実とその時期を企業に紐づけて記録します。売買対象となる残高は既存の仕組みに任せ、ブロックチェーンには「いつ、どんな認証を受けたか」という消せない履歴だけを残す方法です。
利用者向けのポイント付与は既存の基盤でも実現できるため、ブロックチェーンを使う範囲は、改ざんされては困る履歴の部分に絞るのが合理的です。
関連記事:デジタル製品パスポート(DPP)とは?対象製品・時期・企業の準備を解説
技術の外側にある壁 ― 計測をどう信頼するか
dMRV(デジタルによる計測・報告・検証)まで踏み込む場合、ハードルは技術の外側にあり、技術はあくまで部品にすぎません。本当に難しいのは計測の部分です。
活動を認証する仕組みを完全に自動で動かすことは困難で、計測と認証のプロセスは不正が入り込みやすい箇所でもあります。センサーを導入しても、それが正しく設置され、正しい対象を測っているかという問題は残ります。
ブロックチェーンだけでは保証できないこと
ここで明確にしておくべきなのは、ブロックチェーンが保証するのは「記録されたあとに改ざんされていないこと」であり、「最初に入力されたデータが正しいこと」ではない点です。誤った数値や虚偽の申告をそのまま記録すれば、その誤りが改ざん不可能な形で残ってしまいます。
もう一つ重要なのは、導入以前の過去実績が自動的に証明されるわけではない点です。記録の信頼性が担保されるのは、記録を始めた時点から先に限られます。過去の取り組みを示す場合は、当時の認証書類や第三者による証明が裏づけとなり、それらを後から登録した事実は残せても、内容の真正性は別途担保する必要があります。
したがって実装では、第三者による審査、現場での証拠確認、信頼できる計測機器などを組み合わせる必要があります。企業側でも、取り組みを始めた時期・実施した内容・認証を受けた記録を、あとから検証できる形で残しておくことが重要です。証明材料は取り組みと同時に積み上げる必要があり、後から作れるものではありません。
カーボンクレジットに関するよくある質問
カーボンクレジットの活用を検討する際によく寄せられる質問について、要点をまとめます。
中小企業でもカーボンクレジットを創出できますか?
創出できます。J-クレジット制度は事業者の規模を問わず参加できるため、中小企業や自治体、森林所有者も創出者になれます。空調やボイラーの更新、太陽光発電の導入といった設備投資が対象になる場合もありますが、申請から認証までには計画策定・モニタリング・第三者審査が必要です。想定される削減量と手続きの負担を比較して判断してください。
クレジットの購入だけで脱炭素の取り組みと言えますか?
購入だけでは不十分です。カーボンクレジットは、自社で削減しきれない部分を補う手段であり、自社の削減努力に代わるものではありません。国際的なイニシアチブでも、自社での削減を優先したうえで、それでも残る排出をオフセットする順序が求められています。そのため、購入量だけでなく、自社が何にどれだけ取り組んできたかを示すことが重要です。
取り組みの履歴を記録する仕組みは、どのくらいの費用で構築できますか?
記録する対象と範囲によって費用は大きく変わります。認証の履歴だけを対象に既存のブロックチェーン基盤を活用する構成なら、数百万円規模からの着手が可能です。一方、計測データの自動収集や既存システムとの連携、独自基盤の構築まで含めると、数千万円規模になるケースもあります。まずは「何を証明したいのか」を絞り込み、小さく始めて広げてください。
関連記事:ブロックチェーン開発の費用感について詳しくは「ブロックチェーン開発の費用・コストを解説」の記事で解説しています
まとめ
カーボンクレジットは、削減・吸収したCO2を証書として売買できるようにした仕組みで、国が認証するJ-クレジットやJCM、民間のボランタリークレジットなどがあります。用途によって使える種類が異なり、2026年度のGX-ETS本格稼働によって、その重要性は今後さらに高まります。
一方で、二重計上やグリーンウォッシュ、削減量の検証の難しさといった信頼性の課題も指摘されています。だからこそ、購入量だけでなく、自社が何にどれだけ取り組んできたかを検証可能な形で示すことが重要です。
ブロックチェーンはこの証明に有効ですが、使うべき範囲は限られます。特に価値を発揮するのは、「取り組みの履歴」を改ざんできない形で残す用途です。ただし、入力データの正しさまで技術だけで担保できるわけではないため、審査や検査体制と組み合わせる必要があります。
XTELAでは、ブロックチェーンを活用した履歴証明の仕組みについて、適用範囲の見極めから設計・開発までを支援しております。「自社の取り組みをどう証明するか」という整理段階から、お気軽にご相談ください。