Verifiable Credentials(VC)とは?仕組み・DIDとの違い・デジタルID時代の活用事例
2026/08/25
2026/08/25
目次
近年、デジタル社会の進展に伴い、オンライン上で本人確認や資格証明を安全に行う仕組みへの注目が高まっています。その中でも、W3Cが標準化を進める「Verifiable Credentials(VC)」は、改ざん防止や機械可読性を備えた次世代のデジタル証明技術として期待されています。
本記事では、VCの基本概念からDIDとの違い、技術的な仕組み、ブロックチェーンとの関係、国内外の活用事例、そして企業が導入を検討する際のポイントまでを網羅していきます。
Verifiable Credentials(VC)とは?検証可能な資格証明の基本概念

Verifiable Credentials(VC)は、オンライン上で情報の信頼性を証明するための最新技術です。 大学・行政・企業などが発行した証明書を、第三者機関が真贋を検証し、当人がデジタル証明書として提示できる仕組みをいいます。
オンラインによる証明書のやり取りが日常となる中、データの信頼性やプライバシーの確保へのニーズが高まっていることが背景にあります。
VCを構成するIssuer・Holder・Verifierの3者モデル
VCは、Issuer(発行者)、Holder(保有者)、Verifier(検証者)の3者モデルで構成されます。
- Issuer(発行者)
- Holder(保有者)
- Verifier(検証者)
【Issuer(発行者)】
証明書の原本を発行する主体です。大学・行政・企業などが該当し、発行時に秘密鍵でデジタル署名を行います。この署名こそがVCの真正性を担保する核心です。発行者は、証明内容の正確性と、本人の同意を得て発行する責任を負います。
【Holder(保有者)】
VCを受け取り、自身のデジタルウォレットで管理する主体です。本人が該当し、提示する相手や開示する情報を自ら選択できます。パスポートのような存在で、必要な時にだけ特定の情報(例:年齢のみ)を開示することが可能です。
【Verifier(検証者)】
提示されたVCの真偽を確認する主体です。採用企業や行政機関などが該当し、発行者の公開鍵を用いて署名をシステム上で検証します。このとき、Holderの許可なく追加情報を取得することはできず、検証結果(真/偽)のみを提供します。
Verifiable Credentials(VC)が求められる背景
VCはW3C(World Wide Web Consortium)が策定する国際標準仕様であり、デジタルアイデンティティ分野の重要な基盤技術として位置付けられています。
従来のデジタル証明書はPDFや画像が主流で、改ざん確認に人手が必要でした。VCは暗号署名によりシステム上で即時に真偽判定を行います。近年、リモートワーク・オンライン取引・デジタル行政の拡大を受け、「本人確認」や「証明書の発行元・改変の有無の確認」に対するニーズが急増していることが、VC注目の背景にあります。
VCとDID(分散型ID)の関係と役割の違い
VCを語る上で欠かせないのが、分散型ID(DID:Decentralized Identifier) の存在です。分散型IDとは、中央の管理者を介さずに、個人や組織が自身で作成・管理できる新しいタイプのデジタルIDです。
【DIDの特徴】
DIDは、従来のメールアドレスやマイナンバーのように、運転免許証やパスポートなどの属性で証明するわけではなく、公開鍵暗号の秘密鍵を使って証明します。
VC = 発行機関が保証する「属性(名前・住所など)」を証明
DID = 中央機関に依存せず、「秘密鍵を誰が管理しているか」を証明
中央機関が発行するIDとは異なり、自分自身でアイデンティティをコントロールできる点が最大の特徴です。 VCでは、発行機関に登録された名前・住所・電話番号等が重要となるのに対して、DIDでは秘密鍵の管理者であるかどうかが問われます。
【DIDとVCの違い】
DIDが中央の管理者に依存せず主体を識別するための識別子であるのに対して、VCはその主体が持つ属性や資格を、発行元が署名して証明する仕組みです。この違いが両者の大きな分かれ目になります。
特に政府発行IDが利用できない国や地域では、より信頼性の高い本人確認手段として、分散型IDとVCの組み合わせが期待されています。
参照:W3C – Decentralized Identifiers (DIDs)
Verifiable Credentials(VC)の仕組み|デジタル証明を安全に実現する技術

VCは暗号技術を活用することで、従来の証明書よりも高い改ざん耐性とプライバシー保護を実現することが可能です。さらにデジタルIDウォレット(DIW)によって利用者自身が証明情報を一元的に管理することを可能にします。
ここでは、これらの技術的構成要素について詳しく解説します。
暗号学的署名による改ざん防止と信頼性
VCの信頼性を支える中核技術がデジタル署名です。
IssuerはVC発行時に秘密鍵で署名を行い、Verifierは公開鍵を用いて署名の正当性を確認します。署名後にデータが改ざんされた場合は検証に失敗するため、不正な変更を検知できます。
この仕組みにより、Verifierは発行元の真正性や証明内容の完全性を自動的に確認できます。W3CのVCデータモデルでも、改ざん耐性と機械検証可能性が重要な要件として定義されています。
選択的開示(Selective Disclosure)によるプライバシー保護
さらに、VCで注目されているのが選択的開示です。
例えば年齢確認が必要な場合、従来は運転免許証全体を提示する必要がありました。しかしVCでは「18歳以上である」という事実だけを提示できます。
これにより、住所や生年月日など不要な個人情報を開示せずに済みます。
現代のデータ最小化の考え方に合致しており、プライバシー保護の観点からも高く評価されています。
デジタルIDウォレット(DIW)による証明情報の管理
VCは一般的にデジタルIDウォレット(DIW)に保管されます。
利用者はスマートフォンなどのウォレットアプリ上でVCを管理し、自らの意思で提示先を選択します。
この考え方はSSI(Self-Sovereign Identity:自己主権型ID)と呼ばれ、個人が自身のデジタルアイデンティティを管理するモデルとして注目されています。
| デジタルIDウォレット (DIW) | 分散型ID (DID) | 検証可能な証明書 (VC) |
| 実装レイヤー(利用者が使うアプリケーション) | 基盤技術レイヤー(IDそのもの) | アプリケーション・データレイヤー(属性証明) |
| DIDの秘密鍵を安全に保管、VCや署名操作を実行するインターフェース | 中央管理者を介さない、個人や組織の分散型識別子 | 発行機関が署名した、ユーザーの属性情報・資格の証明書 |
| デジタル財布 + 身分証ケース | デジタル上の住所 | デジタル証明書(卒業証明書、免許証など) |
| DIDを「生成・管理・運用」する | DIWが「操作対象」としているもの | DIDに紐づけられた証明書 |
参照:Chainlink – Self-Sovereign Identity (SSI): A New Standard for Digital Trust
VCとブロックチェーンの関係|必要なケース・不要なケース
VCにブロックチェーンは必須ではありません。両者はセットで語られがちですが技術的には独立しており、台帳を使わない構成でもVCは成立します。
必要かどうかを決めるのは技術の優劣ではなく、「その証明を誰と共有し、誰が状態を管理するのか」という運用条件です。以下では、ブロックチェーンが不要なケースと有効なケース、あわせて混同されやすいNFT・SBTとの関係を整理します。
VCやDIDにブロックチェーンは必須ではない理由
VCはW3Cが標準化するデータモデルであり、ブロックチェーンとは独立した基盤技術です。VCの信頼性は、主にデジタル署名と発行者への信頼によって担保されます。
そのため、中央集権型システムでもVCは実装可能です。
実際、多くの実証実験ではブロックチェーンを不要とする構成も採用されています。
ブロックチェーンが有効になるケースとは
一方で、複数の組織や国家にまたがるトラスト基盤においては、ブロックチェーンの分散型台帳技術が有効に機能します。
例えば、学歴証明・資格証明・サプライチェーン管理・デジタルプロダクトパスポート(DPP)・医師の診断書などです。発行履歴や失効情報を複数主体で共有・検証する必要があるケースでは、改ざん耐性を持つブロックチェーンが価値を発揮します。
関連記事:ブロックチェーン開発の費用・コストを解説
NFT・ソウルバウンドトークンとVCの関係
NFTやソウルバウンドトークンのような技術も、広い意味ではVC的な証明モデルとして考えることができます。
NFTやSBTを語る上で欠かせないのが、その位置づけの本質を見極めることです。単なるデジタル上の所有権の証明にとどまらず、それらがどのような文脈で価値を持つのか、エコシステム全体の設計を見据える視点が求められます。
例えば「10年前に取得した資格」という履歴自体は記録として残せますが、本当に重要なのは、その資格を発行した主体が信頼できる機関なのかという点です。VCでは、証明データだけではなく、発行者の信頼性を含めたエコシステム全体の設計が重要になります。
Verifiable Credentials(VC)の活用事例|行政・企業で進む実証と導入
VCの実用化は、行政手続きから民間サービスまで、幅広い分野で着実に進展しています。デジタル庁は有識者会議を開催し、VCのガバナンスや発行者(Issuer)の適格性評価、Walletのセキュリティ水準など、実運用を見据えた論点を整理しています。
ここでは、行政・企業の具体的な活用事例をもとに、VCがどのように社会実装されつつあるのかを解説します。
デジタル庁が推進する行政手続き・公的証明への活用
デジタル庁は、VCを行政手続きのデジタル完結化に活用するためのガバナンス設計を進めています。 具体的には、マイナンバーカードの公的個人認証サービスと組み合わせた本人確認VCの活用や、住民票などの行政証明書をVC化する実証が検討されています。
「カード代替電磁的記録」と「署名検証結果VC」の区別が分かりにくいというのが現状の課題です。誤認を招かない名称や、運用ルールの整備が議論されている段階です。行政手続きにおけるVCは、紙の提出や対面確認を削減し、利便性と信頼性を両立する基盤として期待されています。
参照:デジタル庁 – Verifiable Credential (VC/VDC) の活用におけるガバナンスに関する有識者会議
医療・教育・採用分野におけるVC活用
民間分野では、
- 医療従事者資格証明
- 卒業証明書
- 職歴証明
- 採用時の資格確認
などへの活用が期待されています。
特に採用領域では、経歴詐称防止や照会業務の効率化が期待されています。
日欧デジタルパートナーシップによる国際実証
欧州ではeIDAS 2.0に基づくEuropean Digital Identity Wallet(EUDI Wallet)の整備が進められており、日欧デジタルパートナーシップにおいても、VCの相互運用性やクロスボーダー利用に関する実証が進んでいます。
将来的には、国境を越えて利用できるデジタル証明基盤として発展する可能性があります。
参照:European Digital Identity Regulation(EUDI) – eIDAS 2.0
Verifiable Credentials(VC)の課題と今後の展望
VCは、発行者の信頼性をどう担保するか、失効管理や現行法制度との整合性をどう確保するかといった実運用上の課題がある一方で、行政利用や国際連携の場では実証が進んでいます。
ここでは、VCが直面する現実的な課題と、将来に向けた展望を整理します。
発行者(Issuer)の信頼性とガバナンス設計
VCの価値は発行者への信頼に大きく依存します。
そのため、発行者が誰であるかを明確に認定する仕組みや、発行者間の信頼関係を定義するトラストフレームワーク、そして信頼できる発行者を一覧化したトラストレジストリなどの整備が不可欠です。
単に技術を導入するだけでは不十分です。誰がどのようなルールのもとで証明を発行し、それをどのように検証・維持するのかというガバナンス設計が、社会実装における極めて重要な要素です。
失効管理・法制度対応など実運用上の課題
資格の更新や退職、資格剥奪などに対応するため、VCのライフサイクル全体を見据えた失効管理が極めて重要です。
どのタイミングで・誰が・どのように失効を通知・反映させるかという運用設計は依然として重要なテーマです。また、現行の本人確認制度や各国の法規制(犯収法・eIDASなど)との整合性をどう確保するかも、VCの実運用を考える上で避けて通れない課題となっています。
デジタル社会の信頼基盤として普及する可能性
AIエージェントやデジタルウォレットが普及する中で、VCは「自動化の信頼性」を支える基盤技術として期待されています。AIがユーザーに代わって証明書を選択・提示し、検証者側もプログラムによって自動検証する未来では、VCの機械可読性と暗号学的検証が不可欠です。
行政手続き・金融取引・教育証明・医療情報連携など、幅広い分野での利用が進めば、VCは単なる証明書フォーマットを超え、デジタル社会全体の主要インフラとして定着する可能性を秘めています。
参照:デジタル庁 – 別紙 3 行政機関における VC 及び DIW の活用にあたる検討事項リスト(案 )
自社にVerifiable Credentials(VC)は必要か|導入判断のステップ
VCは、すべての企業が導入すべき技術ではありません。判断の基準は技術的な先進性ではなく、「証明のやり取りが自社の業務コストやリスクになっているか」という点に絞られます。
ここを見誤ると、仕組みは完成しても使われないという過剰投資になりかねません。以下では、自社にとって必要かどうかを見極める手順を、役割の整理から具体的な検討項目まで順に解説します。
まず「自社がどの役割を担うのか」を決める
まず検討の出発点は、VCの3つのポジションのうち自社がどれを担うのかを決めることです。
・Issuerになるのか(証明を出す側)
・Verifierになるのか(証明を受け取る側)
・Wallet Providerになるのか
役割ごとに必要な体制・責任・コストが全く異なってきます。
VC導入を検討すべき企業の条件チェックリスト
以下に当てはまる企業はVCの導入価値がある可能性があります。
・証明書の真正性確認に人手の照会コストが発生している
・組織をまたいで同じ属性を何度も確認している
・過剰な個人情報を取得してしまっている(データ最小化の必要性)
・国境や業界をまたぐ取引がある
スモールスタートの進め方|自社開発か、サービス調達か
導入する際は、まずはPoC(概念実証)や限定ユースケースから始めることが推奨されます。自社の役割(Issuer/Verifier / Wallet Provider)に応じた最小構成で検証を実施し、運用課題やユーザー体験を早期に把握することが成功の鍵です。
近年はOpenID4VCなどの標準仕様も整備されており、フルスクラッチ開発以外の選択肢も増えています。
検討時に決めておくべき仕様項目チェックリスト
VC導入では以下の設計項目を事前に整理しておく必要があります。
- VCデータ形式(W3C VC Data Model / mdoc など)
- DID方式(did:key / did:web / did:ethr など)
- プロトコル(OpenID4VC / SIOPv2 / DIDComm など)
- 失効方式(Bitstring Status List / Revocation Registry など)
- ウォレット(セルフカストディ型 / ホステッド型 など)
- トラストリスト(Trusted List / トラストレジストリ の運用方式)
- 鍵管理方式(HSM / MPC / クラウドKMS など)
関連記事:MPCウォレットとは?秘密鍵管理の設計と仕組み
これらの選択は相互運用性や将来の拡張性、運用コストに大きく影響するため、ユースケースに応じて慎重に評価するのがよいです。
まとめ:Verifiable Credentials はデジタル社会の主要基盤となる技術
VCはDIDやデジタルウォレットと組み合わせることで、本人確認や資格証明の効率化、プライバシー保護、業務コスト削減を実現する技術です。
エコシステム拡大に向けたトラストフレームワークとして、企業運用に留まらず行政システムでも重要な役割が期待されます。官民をまたぐ証明連携の進展により、VCはデジタル社会全体の主要基盤となることが予想されます。
一方で、VCの導入では技術選定だけでなく、発行者の信頼性、トラストフレームワーク、失効管理、法制度対応など、エコシステム全体を考慮した設計が不可欠です。
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